RSS中小企業支援研究創刊号
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日銀が市場に大規模に供給している資金が中小企業に回って活発に設備投資をする動きはない。 また、今春の賃上げについては、何らかの賃上げをしたいとする企業が54.9%あるが、その大部分は定期昇給のようだから、行われても年齢別の現行賃金水準を維持するのにとどまる。また、賃上げをしない企業も多くその理由を聞くと、「消費増税による落ち込みが予想され、すでに取引先からの発注減をいわれているため」(婦人服製造業、福島)という声のように、先行き悲観的な見通しが強いためです。 第4に、この声のように、今年の3月までは売上増加が続くと見ているが、4月以降、業況が悪化すると予想する中小企業が非常に多く、全業種では「業況の好転を見込む企業の割合-業況の悪化を見込む企業の割合」=-16.0%ポイントになっている。 セメント・生コン・建材卸売業(埼玉)「年末は忙しいけれど、通年では去年なみの売上げにすぎない。消費増税による駆け込みがなかったならば、前年割れの数字になったのではないか。したがって4月以降が恐ろしい」。ベビー衣料製造業(静岡)「夏以降は苦しくなる。4月からの消費増税、1年後の再増税。単価の大幅上昇を願うものの現実は厳しい」。建築業(愛知)「住宅新築物件数を増やす営業努力をしたが、9月を境に来場者数が減少した。今は、リフォーム工事の受注が増えているが、消費増税後の引き合い量がとても心配である」。 以上のように見ると、2013年末の景況感の改善というのは、中小企業の採算を好転させるものではなく、したがって設備投資や賃上げにも結び付かない「空景気」が強まったにすぎず、それも4月以降崩壊が予想される。ある建設業者(静岡)は次のようにいう。「トヨタが1社で2兆円利益を上げるなら、2万社が1千万円利益を上げる社会の方がよい。大企業はアベノミクスという利益供与で潤ったが、中小企業は蚊帳の外。根本的な改善策が何もなされていない」。この通りだと思います。大林:アベノミクス自体、日本経済の動向と政策の間に対応関係があると思います。今回、安倍首相としては第二次政権ですが、安倍カラーを抑えている印象があります。第一次安倍内閣では、安倍カラーを前面に押し出し、うまくいかなかった。首相自身は、成長志向型の政策を希望しているが、金融関係機関=マーケットを支援することを前提にして、安倍カラーを推進しているように思えます。 三本の矢は、常識的な経済学を踏まえると混乱したものであると考えます。第1の矢についても、デフレ脱却策となりうるか疑問ですね。消費税増税に対しても「リフレ派」の評価は低い。マーケット支援前提で進められているため、金融は経済の主役にならないにもかかわらず、リフレ派はこれを前提で物事を行っている。今後のカギは、成長戦略と消費税増税になると私は思います。 このように考えると、アベノミクスは、中小企業を想定したものではない。アベノミクスは、大企業を中心にマクロ的な政策がほとんどですからね。民主党政権末期(野田政権)に成長戦略において急に中小企業政策を柱の一つにしたが、中小企業を視野の中心に入れないような政策が続くと思います。ただし、選挙対策として、中小企業に関する悪いデータが出ることを非常に気にしていることは事実です。ゆるやかな成長の中でも中小企業の業種で成長しているのは、大勢としては輸出関連産業のみです。したがって、相対的に中小企業はよくない状況が依然として続いている。自民党の新しい支持基盤として、商工会等に食指を示しているので期待したいが、全体的には、中小企業は、アベノミクスに期待できないと思います。黒瀬:大林さんが話された通り、アベノミクスは、中小企業に良い影響を及ぼせないし、重視していないと私も思います。デフレを金融現象と考えて、マネタリーベースをどんどん増やせば経済が良くなるなんてことはありえませんからね。また、日本を取り戻すといっても実体がわからない。どういう日本を作りたいのかが見えにくいですね。 問題は、成長すればいい社会が生まれると思っていることだと思います。先進諸国の資本主義は成熟化していて、成長は新興国に移っています。成長を無理に求めると、金融バブルしかない。金融バブルは、人々の自己労働に基づかない所有の獲得ですね。いわばレントナー化です。 成長が望めない状況から、社会をどう導いていけばいいのか。私なりにいいますと、哲学的になりますが、労働の尊厳が重視されるような社会。GDP成長にこだわらない格差をなくす社会、労働が重んじられる社会を目指すべきだと思います。反大量生産型の産業を育成し、中小企業が発展すれば、労働の尊厳が保たれる。そこに政策の焦点を置けばいいと思います。港:現在、円安となっており、これは自動車産業に利益を与えていますが、全体的に見ると意外なほどメリットが少ないといえます。それは、現地生産している企業が増14中小企業支援研究

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