RSS中小企業支援研究創刊号
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しましたが、1970年代中ごろからは開発志向性を強め、技術的にも大企業から自立をはじめました。しかし、市場は依然大企業に依存し続け、80年代末段階でもこの基本傾向は変わらなかった。したがって、90年代には市場面での自立が期待されたが、長期停滞への突入により、中小企業の開発志向性はかえって鈍った。不況に入って、開発はリスキーなものとなったからです。 ただ、その中でもマーケティング力をつけた企業が研究開発にも成功し、独自の市場を作り上げてきた事例もあります。港さんとの議論でいえば、政府の研究開発予算が足りないのではなく、中小企業のマーケティング能力が低いことが問題であると思います。試作品のための補助金ならば出しやすいが、マーケティングは補助しにくいのは事実ですね。特定の利益につながると見えるので、補助しにくい。技術的には、既存の中小企業はかなりのものを持っていると思います。もともと中小企業は、独立の技術開発予算は計上していない。自動機械で生産している傍らで、みんなが議論し合うのが中小企業の研究開発の実態です。港:そういうタイプの研究開発があるのもわかりますが、それは国際競争力強化につながりません。少し機能がいいぐらいの累積的技術改良なら新興国でも実現可能です、本格的なイノベーションを行わなければなりません。ブレイクスルー的なイノベーションを行わない限り生き残れないと思います。同時に、コンセプトやデザインのイノベーションが重要であると思います。 アイロボット(iRobot)社のルンバなんかはまさにコンセプトのイノベーションですね。けれどもこれも基本的には、センサーと制御装置を組み込んだだけですからね。シャープなんかが後追いしても先行者メリットでなかなか追いつけない。羽のない扇風機なんかも東芝が30年前に特許をとっていたが、特許が失効して他国で製品化されている。技術を持っていながらコンセプトの開発ができていない。70年代にはソニーがウォークマンなどコンセプトの革新で成長しましたが、近年では成功例があまりない。黒瀬:そんなことはないですね。日本の中小企業は、大企業の下請けの下での研究開発が多いけれども、マーケティング力を生かして売り上げを伸ばしている企業もあります。子供向けの商品で、輪ゴムを商品化した結果、付加価値を増やしたケースも存在します。インクリメンタル(漸進的)な研究開発も重要で、インクリメンタルな研究からでもコンセプトを変えるような技術開発はできると思います。中小企業の技術の幅の狭さについては、小さな中小企業を中心とする水平的なネットワークで中小企業を支えていけばよいと思います。港:アイロボット社は、ペンタゴンから受注した軍用ロボットを開発した研究成果を、家電製品に応用しています。やっぱりそういう発想が重要になると思います。大林:技術開発や研究開発、イノベーションなどについてはよく議論されますが、何を革新させるかが今、問われていると思います。「おもてなし」とか「日本の美意識を輸出せよ」という人もいますね。低成長経済の中でも安定した成長を続けるということが、現実妥当的な革新論、イノベーション論だと思います。 サブカルチャー的なものも意図しない形で世界において説得力を持ち始めている。経済産業省等も急いで支援しようとしていますね。国のやる仕事としては、不適切であると思いますがね。国の研究所や工業試験所が縮小していますが、中小企業への根本的な技術開発支援が今できない状況にあるのが問題であると思います。 政策的な規制によってせっかく開発した技術が失われている現状にも問題があると思います。また、金融筋や大企業筋の誘いによって技術が中小企業のものではなくなる場合があるのも危惧するところです。黒瀬:大企業に技術を真似されるケースが数限りなくあります。大企業の依頼で中国で技術指導したら内製されてしまったということがあります。特許を取るとかえって真似されてしまうケースもあります。大林:1つの技術が1つの特許で守れない。10くらい取らないと真似されてしまいます。黒瀬:金型では、大企業に設計図を渡したら、2号型以降は中国で作られてしまったというケースもありますね。伊藤:大企業は、マーケティング力があるので、すぐに飲み込んでしまいますね。今の状況では、特許だけでは技術が守れないので、他の技術流出を食い止める仕組みを作らなければならないと思います。港:1980年代までは、商品が独自仕様で、部品が個々に違っており真似される恐れがなかった。しかし今は、モジュール化(標準化部品の組み合わせによる商品設計化)されている商品がほとんどなので、サプライヤー変更のスイッチングコストがかからず、調達先は簡単に変更されてしまいます。 したがって、取引先を少数に限定したベンチャー企業17中小企業支援研究 Vol.1

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