RSS中小企業支援研究創刊号
21/60

シリコンバレーのソフトウエア技術者は、ほとんど従業員の紹介で採用されています。創造的な業種では、終身雇用型ではうまくいきません。デザイナーなんかも同じ分類に入りますね。会社員のデザイナーでは、革新的なデザインは生まれにくい。知的人材の処遇をハイリスク、ハイリターン型に転換する必要があります。大林:実態として今、デザイン部門はほとんど外注化されているのかな。港:いえ。日本は、外注化は少ないです。大林:1995年に、当時の日経連から「日本的経営」の再構築ということで、デザイン部門等の専門部署を終身雇用から外すということが提案されました。ただ大企業が政策的に雇用流動化を前面に掲げることはあり得ないと思います。恐怖的な経営は、一時的には、成功するかもしれないが、最終的に劣化していくと思いますね。雇用の安定化は停滞に結びつくという理論は日本的経営を真逆にした考え方で、日本的経営と同様に世界を納得させられないと思います。雇用の在り方として、どういう在り方が創造性を生んでいくのか。そういった議論は必要になると思います。齊藤:アベノミクスは、労働の流動性をどう評価するのか。注目ですね。港:国会で金銭対価による解雇を認める議論をした途端、集中反発されていましたね。大林:日本経団連と新興勢力との確執がありますね。いずれにしても国民の経済厚生や雇用安定を高めようという話ではないので、議論の中心にはならない話ですが。黒瀬:労働者のための労働者派遣法だって、あきらかに解雇に使われていますからね。大林:アメリカのような宗教的絆が中心の経済界では成り立つのかもしれませんが、日本ではどのような立場に対しても説得力がないと思いますね。黒瀬:大学の中でも有期雇用制を打ち出しているところが多くなったが、創造的な論文が増えましたかね。むしろ逆のような気がしますね。中小企業学会についても、問題があると思いますね。港:どのような理由によるのかは分かりませんが、若手育成の中核となるべき50代教授の能力が低くなっている気がします。齊藤:少子化の下で、入学生確保のための学内改革行政に追われて、大学教員は大変忙しくなってきて、研究教育に十分力を注げない状況が生じてきています。大林:中小企業論については、一見研究への参入が容易だから、アカデミックな研究については、安易に、現実や政策に追随的な論文が作られており、アカデミックな背景を持たないことがかえって現実対応能力が欠けるという結果を招いています。そのような傾向が突出しているのが中小企業研究の実態だと思います。伊藤:アベノミクスに対する判断は、まだ先になると思います。いろいろな問題点がありましたが、みなさんのお考えがわかりました。中小企業論に関しては、昔は、中小企業研究といえばマクロ論でしたが、今は中小企業経営論になっている。もう少し構造的、理論的な論文が出てくるといいと思いました。 まだまだ議論しなければならない論点がございますが、時間になりましたので、本日の座談会はこれで終了させていただきます。追記:この座談会記録は、中小企業研究・支援機構長の責任においてまとめた。特に黒瀬氏の発言については、『中小企業問題』(No.139、2013年5月)に掲載されている同氏の発言を、一部追加した。19中小企業支援研究 Vol.1伊藤 公一(左)千葉商科大学名誉教授、日本中小企業学会元会長齊藤 壽彦(右)千葉商科大学経済研究所中小企業研究・支援機構長大林 弘道(左)神奈川大学名誉教授、日本中小企業学会理事・元副会長黒瀬 直宏(中)嘉悦大学ビジネス創造学部教授、日本中小企業学会理事・元副会長港 徹雄(右)青山学院大学国際政治経済学部教授、日本中小企業学会常任理事・元会長司会者出席者

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です