RSS中小企業支援研究創刊号
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トピックス21中小企業支援研究 Vol.1関や自治体の果たす役割が欠かせず、今こそ出番でもある。金融機関にはこれまでの保証協会の保証や担保の枠内の支援にとどまらず、事業の強みや経営者の手腕を見極める「目利き力」を高め、支援範囲の拡大が必要だ。また、ABL(在庫や売掛金などを担保にした融資)の積極的な活用なども求められている。技術力やサービス力が優れていても、販路拡大する術を持ち合わせていない企業は多い。そこで金融機関が持つネットワークを生かして、すべての金融機関が参加したビジネスマッチングで販路支援システムを構築し、実効性を高めるべきである。金融機関は経営実態を把握し、体質改善などの事業再生戦略や後継者対策など事業見直しへの経営相談で指導的立場を発揮することが必要だ。経済のグローバル化により中小企業も世界経済の環境変化に巻き込まれているだけに、起きている事象への対応や先を見据えた対策立案などにも、情報収集能力の高い金融機関が先頭に立つべきだろう。多くの自治体は工業団地を造り、企業誘致に注力しているが、大手企業は生産拠点を集約し、安い人件費とグローバルマーケットを求めて海外移転を進めている。この結果、地方からの撤退が加速し、空洞化現象は地域経済に深刻な打撃を与えている。産業集積を目指しながら企業が進出せず、当初の見込みと違い歯抜け状態となった工業団地が各地で見受けられる。こうした事態を打開するには自治体が単独で取り組むより、大学や研究機関と連携し資金調達を含めた産業集積への支援機関を組織するなど、自治体が地域にふさわしい産業集積案を示して主導的な役割を担うべきだろう。イタリア北部のフィレンツェやベネチアに見られる中小企業の集積地は、多様な産業が集積している。集積内企業で幾多の部品を製造し、それを組み立てて製品化する一貫製造に向けた共同体的な連携が確立されていて、人口以上の企業数が集積している町もある。集積した中小企業は、優れた技術力を絶えず進化させ、顧客ニーズに柔軟かつ迅速に対応する力量を備えている。こうした共通点を持つ企業同士の連携が、小規模でも高い収益力につながっている。これはわが国の中小企業の生き残りに重要なサジェスチョンでもある。前述した支援策を享受できる事業者は限定的とみるべきで、多くの企業は自助努力による経営改善を余儀なくされるだろう。顕在化した課題、内包する潜在的な課題の克服は、最終的には経営者次第と言っても過言ではない。では経営者は今後、どうあるべきか。まずは創業の精神に回帰すべきだろう。何もかもないないづくしの創業時は、誰もが「企業家精神」が旺盛で、心に秘めた闘志があったはずだ。それは豊かなビジョン、素晴らしい情熱に加え、見事な行動力、的確な決断力を持ち合わせていたと思うが、これこそが経営の原点である。民事再生法の制定で経営者は再チャレンジの機会を手に入れたのは良かったが、同時にステークホルダーに対する責任の所在も希薄化した。起業時の「命がけの経営」に戻ることで、見栄や外聞とともに苦労して築いた個人資産を必要次第では捨て去る覚悟もできるはずだ。中小企業の多くは、家族中心の生業である。身内以外の社員が後継社長に就けるケースは稀で、後継者難から一代限りで廃業してしまうケースも少なくない。起業して営々と築き上げてきた経営者には人一倍の「俺の会社」という意識が支配しており、経営の中枢を他人に任せる経営者は少ない。これでは優秀な人材が集まる訳もなく、社員が育つ土壌もないまま慢性的な人材難に陥っている。自分の人生をかけた企業であろうと、ひとたび起業した時点から「自分の会社」という意識を排除し、社員の中から将来を託す人材を発掘して禅譲するべきだろう。どうしても後継者不在なら事業譲渡で雇用を守り、企業や事業を存続させる。企業を通じてあらゆる面から地域に貢献することこそが、経営者として社会的責任を果たすことであり、最後の総仕上げであることを自覚すべきだ。国を挙げた数々の支援策を受けられる企業は、「俺の会社」という概念を捨て去り、社会的貢献を経営理念に持ち、「命がけの経営」を実践している企業に限定すべきではないだろうか。

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