RSS中小企業支援研究創刊号
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37中小企業支援研究 Vol.16 金融庁によるリレーションシップバンキングの取組みの要請が終了した後には、多くの金融機関で担当する部署の人員削減が実施されている。その結果、支援能力が低下したものと推測される。7 金融庁は、25年3月付の金融機関向け説明資料で、円滑化法の弊害について指摘している。8 本来は、この時期に完了件数を増加させる取組み強化が必要であった。同時に、円滑化法に基づいて条件件変更等を申込んだ企業に対して、経営改善の取組みを求めることを促進しておく必要があった。3.中小企業等向け経営改善の現状中小企業等に対する経営改善に関する諸制度の整備は進んでいる。特に、長引く経済不況の下、平成15年に設置された中小企業再生支援協議会(以下協議会と略称)の取組みは、経営改善の促進に貢献した。同時期に、金融機関に対してコンサルティング機能の強化(リレーションシップバンキングの促進)が求められ、この点も中小企業等に対する経営改善にプラスとなった。(1)中小企業等に対する経営改善の流れ中小企業等に対する経営改善支援の諸制度は、平成15年の協議会の設置から同24年の経営力強化支援法の制定までの10年程の比較的短い期間で整えられてきた。図表7では、その流れを金融検査マニュアル等の改定の時期と併せて整理した。平成12年の民事再生法の制定と大企業に対する対応である私的整理ガイドライン並びに産業活力再生特別措置法(産業活力の再生および産業活動の革新に関する特別措置法)を基に、平成15年に協議会が設置され、同15年から同18年には金融機関にリレーションシップバンキングに基づくコンサルティング機能の強化が求めたことで、経営改善体制の整備は進んだ6。さらに同22年の中小企業応援センター事業をはじめとする支援、そして、同24年の経営力強化支援法の制定に至る。もっとも、この間に実施された資金繰り支援を中心とした緊急保証制度及び円滑化法の効果については、家森(2012)など先行研究の多くで批判が少なくない7。(2)協議会(中小企業再生支援協議会)協議会は、事業再生支援において案件ごとに金融機関等と協議体を構成し、そこで専門家の事業分析結果の共有化を図る。この情報共有化は、定性分析手法と経営改善手法を金融機関の職員が学ぶことにもなり、中小企業等に対する支援能力の向上に貢献した。協議会の設置以降、その支援した事業再生計画の完了件数は順調に伸びたものの、経済の回復基調に合わせて下降傾向となった8。また、リーマンショックが発生した平成21年には完了件数は増加したが、円滑化法の制定後大きく減少した。円滑化法終了を踏まえ、平成24年には完了件数3000件を目標に協議会の統括責任者補佐の増員をはじめとする組織強化が行われたが、完了件数は目標数には至らなかった(ただし、同年度5月に設置要領の改訂が行われ、その結果、年度合計では完了件数は1511件と大幅に増加した。これは、暫定リスケという名の下に完了案件の増加が促進されたことによる。実質的に円滑化法の延長と同様の支援策と考えられ、金融機関による格付けの維持や引当金準備の機関を設けるためとの批判も少なくない)。現在、数値基準は緩められ計画策定支援件数増加への取組みが強化されているが、それでも支援数は倒産の可能性が指摘される5万には程遠い結果に留まっている。さらに、協議会の取組みには問題の指摘も少なくない。福岡県の協議会設立に関与した山本博一は、山本(2012)において、協議会による支援では、(金融支援を受ける)中小企業等の立場が弱く金融機関の意向を強く反映する結果となっていると指摘し、金融調整の機能を強めた「中小企業版再生ADR機関」を主要商工会議所に設置することにより、税の投入効率を高めるとともに実情に即した支援を提案している。協議会が抱える問題は、金融機関と中小企業等の調整を行う仕組みであることから金融機関の意向を勘案する必要があること及びその設置要領が示す通り、一定の数値基準での調整が必要な点が挙げられる。支援対象となった中小企業等は返済負担が軽減されるとはいえ、その負担軽減に限度(単年度の返済負担が軽減されるのであって、長期的には返済額は利息負担分増加する)があり、特に、業容が改善しない場合には長期間にわたって返済負担が続くことになる。この点が、山本(2012)が指摘する通り支援の限界と考える。協議会の課題は、地域経済の

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