RSS中小企業支援研究創刊号
46/60

44中小企業支援研究研究ノート中小企業における新事業展開と社長のリーダーシップ―東証マザーズ上場企業の成長力と社長のリーダーシップ研究を参考に―1.はじめに(背景と目的)市場ニーズが刻々と変化する中で、新事業展開を躊躇い、業績を悪化させている中小企業1は多い。中小企業庁(2013)によると、従業員規模が小さな事業者ほど、新事業展開を実施する事業所の割合は低くなっており、中小事業所では大事業所の半分以下の割合となっている(pp.91-92)。日本政策金融公庫(2013)の調査では、新事業展開を行っている企業は、行っていない企業に比べて、売上高や利益額が増加傾向である割合が高くなっている(pp.4-6)。このことからも、市場ニーズの変化に対応する新事業展開は、企業が成長する上で、極めて重要な経営課題といえる。それでは、市場ニーズが変わり、業績が悪化しているにもかかわらず、中小企業が新事業展開を躊躇うのは何故であろうか。中小企業庁(2013)によれば、「有望な事業の見極めが困難」、「既存事業の経営がおろそかになる」のように、情報収集・分析不足が原因で、最適な事業分野を見極めることができておらず、また、既存事業への悪影響を懸念して、新事業展開に踏み切れていない現状がうかがえる(pp.113-114)。このように、新事業展開を躊躇するのは、多くの困難やリスクを伴うことが、主な原因として考えられている。しかしながら、中小企業が、新事業展開に踏み切れないのは、経営トップである社長のリーダーシップ力不足、あるいは、誤ったリーダーシップのとり方にも大きな原因があるのではないであろうか。これらの課題や困難に立ち向かい、不確実性の高い新領域に挑戦するには、社長の力量が大いに試される。日本政策金融公庫(2013)によれば、新事業展開にあたっては、代表者が新事業を発案するケースが多い(p.9)。また、中小企業庁(2013)は、経営者がリーダーシップを発揮し、率先して実行していくことが必要である(p.116)と説いている。ゆえに、新事業展開によって成長を図るには、従業員規模の小さな企業ほど、社長の決意と取り組みが何よりも重要と考えられるが、中小企業の新事業展開における社長のリーダーシップのあり方に関する議論は十分なされているとはいえない。そこで、本稿では、中小企業が新事業展開に挑戦し、成長力を高めるための社長のリーダーシップのあり方に着眼し、議論を展開したい。Kotter(1999)は、「リーダーシップとは、変革を成し遂げる力量を指す」と説いているが、この「変革を成し遂げる力量」すなわち、「変革型リーダーシップ」の理論を用いて検証した、佐竹(2007)による「東証マザーズ上場企業における社長のリーダーシップと企業成長力の研究―変革型リーダーシップ理論からの考察―2」などを基に考察してゆく。2.新事業展開と変革型リーダーシップ2. 1 成長を促す新事業展開と経営者のリーダーシップ新事業展開は、『中小企業白書2013年度版』において「既存事業とは異なる事業分野・業種への進出を図ることをいう」として定義されている。さらに、分析の内容により、新事業展開を事業転換と多角化に分類している。事業転換は、過去10年の間に新事業展開を実施し、10年前と比較して主力事業が変わった場合とし、多角化は、過去10年の間に新事業展開を実施した場合で、事業転換以外としている。中小企業庁(2013)によれば、中小事業所や小規模事業所では、新事業展開を実施した事業所の過半が事業転換につながっている(pp.91-92)としており、規模の小さい企業ほど、経営資源の乏しさから、自ずと多角化よりも事業転換型のケースが多くなっていると推察できる。つまり、規模の小さい中小企業ほど、限られた経営資源を選択と集中により有効活用することが求められるため、結果として、事業転換型の新事業展開となるのであろう。既存事業から脱却し、事業転換型の新事業を創出するには、創造と破壊、すなわち、イノベーション1 中小企業の定義は、中小企業基本法第2条を参照されたい。2 本研究の一部は、経営行動科学学会第12回年次大会(2009年)において発表した。佐竹 恒彦研究ノート2014年1月11日掲載承認

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です