RSS中小企業支援研究創刊号
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50中小企業支援研究3.9 仮説の検証仮説1:社長の変革型リーダーシップのレベルは、企業成長力に影響する。自己評価によるMLQで測定された社長の変革型リーダーシップのスコアが高ければ、売上成長率や営業利益成長率、経常利益から算出された企業成長力も高い。「仮説1」に関しては、これまでの分析から有意な結果は示されなかった。すなわち、「仮説1」は、支持されなかった。仮説2:社長の変革型リーダーシップの下位尺度である五つの各構成因子のレベルは、企業成長力に影響する。「仮説2」に関しては、これまでの分析から五つの全ての構成因子のレベルが、企業成長力に有意に影響を及ぼしているといった結果は示されなかった。しかしながら、一部の因子のレベルは、企業成長力に有意に影響を及ぼしていることが明らかとなった。したがって、「仮説2」は、部分的に支持されたといえる。仮説2-a:社長のカリスマ因子のレベルは、企業成長力に影響する。「仮説2-a」に関しては、これまでの分析から有意な結果は示されなかった。すなわち、「仮説2-a」は、支持されなかった。仮説2-b:社長の理想的影響行動因子のレベルは、企業成長力に影響する。「仮説2-b」に関しては、これまでの分析から有意な結果が示された。つまり、社長の変革型リーダーシップの構成因子の一つである「理想的影響行動」因子のレベルは、直接的に「企業成長力」に影響を及ぼすといえる。すなわち、「仮説2-b」は、支持された。仮説2-c:社長の鼓舞する動機付け因子のレベルは企業成長力に影響する。「仮説2-c」に関しては、これまでの分析から有意な結果は示されなかった。すなわち、「仮説2-c」は、支持されなかった。しかしながら、「鼓舞する動機付け」因子と「企業成長力」は、有意に相関を示した。したがって、「鼓舞する動機付け」因子と「企業成長力」には、直接的な因果関係を見出せなかったものの、この二つの変数には、何らかの関係性があるといえる。仮説2-d:社長の知的刺激因子のレベルは、企業成長力に影響する。「仮説2-d」に関しては、これまでの分析から有意な結果は示されなかった。すなわち、「仮説2-d」は、支持されなかった。仮説2-e:社長の個別的配慮因子のレベルは、企業成長力に影響する。「仮説2-e」に関しては、これまでの分析から有意な結果は示されなかった。すなわち、「仮説2-e」は、支持されなかった。4.考察変革型リーダーシップ理論を活用した検証をおこなった結果、先行研究において実証されていた社長の変革型リーダーシップのレベルは、東証マザーズ上場企業の成長力には影響しないことが新たに発見された。また、これまで明らかにされてこなかった、東証マザーズ上場企業の成長力と社長のリーダーシップのあり方を構成因子との関係性から検討した結果、東証マザーズ市場における規模の小さい企業の成長力を高めるためには、変革型リーダーシップの構成因子である「理想的影響行動」を高めることが、社長のリーダーシップには求められることが明らかとなった。さらに、変革型リーダーシップの別の構成因子である「鼓舞する動機付け」を高めてゆくことも有効であることがわかった11。以上から、「理想的影響行動」や「鼓舞する動機付け」は、東証マザーズ上場企業と類似している中小企業の社長にとっては、最も重要な行為であり、これを高めることが、様々な課題や困難が伴う新事業展開を成功させ、企業を成長させることにつながるといえる。つまり、マザーズ市場に上場する発展途上の規模の小さな新興企業や中小企業においては、「理想的影響行動」や「鼓舞する動機付け」に係るリーダーシップ、すなわち、社長自身の見え隠れする人生観や価値観、使命感、経営哲学、理念、信念などを熱心に語り、ビジョンを明確に打ち出し、前面に出してゆくふるまいが、新事業展開や企業を成長させるための大きな原動力となるのである。佐久間(2005)は、経営トップの仕事は、「経営理念」に基づいた判断や方向性を、繰り返し伝えることにある(p.19)と説いているが、社長の思いや経営理念達成に向けた取組みを愚直に継続することは、社内外における関係者からの信頼と協力が得られ、11 図2でも示したが、成長している企業群(「変革成功型」と「幸運型」)は、この「理想的影響行動」と「鼓舞する動機づけ」因子が、他の3つの因子より著しく高い値を示しており、成長力が低下している企業群(「空回り型」と「放漫型」)では、この二つの因子の度合いが低い。研究ノート

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