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SPECIALISSUE【時事評論】アベノミクス1年齊藤 壽彦 16中小企業支援研究はじめにアベノミクスとは安倍晋三氏の名前と経済学を意味するエコノミックスという用語とを組み合わせた和製の造語である。2012年12月に成立した第2次安倍内閣が日本の景気低迷(バブル経済崩壊後の1990年以降の約20年間の「失われた20年」)と1990年代末以降のデフレを克服するために行う経済政策という言葉として使われている。アベノミクスという経済政策は、①日本銀行が金融緩和政策をこれまでになかったほど大胆に推し進めること、②政府が公共事業のための財政歳出を行って経済を浮揚させるという機動的な財政政策を実施すること、③民間の投資を増加させるために政府が経済規制の緩和や新産業の育成などを図るという成長戦略を推進すること、これらの3つの内容から構成されている。第2次安倍内閣は、この3本柱を「3本の矢」と呼んでいる。このような政策を通じて、物価が連続して下がるというデフレ状態をなくして2年以内に2%程度の物価上昇を実現し、また、設備投資の増大を図り日本を再興させるという目標を持つものである1。超金融緩和政策と機動的財政出動がすでに実施されており、また現在本格的な成長戦略、産業競争力強化策が検討されている。この政策をめぐっては、政治家や専門家などの間で大論争が行われている。アベノミクス導入後、1年を経過し、その評価もある程度可能になってきている。このアベノミクスについて、私なりの意見を述べてみたい。1.アベノミクスの内容(1)大胆な金融緩和政策アベノミクスの「第1の矢」は、「異次元的金融緩和」である。早くも2013年1月22日に政府及び日本銀行の政策連携に関する共同声明において、日本銀行は、物価安定の目標(インフレ目標)を消費者物価対前年比2%上昇とするとともに、金融緩和政策を推進して、早期にこの実現を目指すこととした。日本銀行は、2013年4月4日に「量的・質的金融緩和」の導入を決定した。これは、第1に、強く明確なコミットメントを行おうとするものであった。すなわち、2年以内に2%の物価上昇を実現することとされた。第2に、マネタリーベース(日銀券発行高+鋳貨流通高+日銀当座預金)という資金量を増大させることを操作目標として、量・質ともに次元の違う金融緩和を実施することとした(異次元の金融緩和)。第3に、わかりやすい金融政策を目指すこととした。第4に、物価安定目標実現まで金融緩和を継続することとした。第1表に見られるように、マネタリーベースと日本銀行の長期国債保有は2013年に急増している。日銀は貸出支援基金を通じた成長融資による金融緩和補完も行っている。1 1998年度に名目GDPは対前年度比マイナス2%近くにまで落ち込み、GDPデフレーターも低落しており、以後GDPデフレーターの対前年度増加率はマイナスを続けている。これ以降本格的なデフレ経済に移行したと考えられる。1990年代初頭のバブル崩壊以降の役20年間の名目国内総生産(名目GDP)成長率はマイナス0.2パーセントにとどまった。「量的・質的金融緩和」の導入14年末270兆円13年末200兆円13年末140兆円12年末138兆円12年末89兆円見通し07 年08050100150200250300(兆円)09101112131414年末190兆円マネタリーベース日本銀行保有長期国債第1表 マネタリーベースと日本銀行の長期国債保残高の推移(出所)『にちぎん』第9巻第4号、2013年12月、25ページ。

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