RSS中小企業支援研究創刊号
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7中小企業支援研究 Vol.1(2)機動的財政政策「第2の矢」は「機動的財政政策」である。2013年1月11日に「日本経済再生に向けた緊急経済対策」が閣議決定された。「機動的財政政策」の目玉は、公共事業支出の拡大であった。安倍内閣は、不況対策として、2012年度補正予算で4.7兆円、2013年度当初予算で5.3兆円、合計10兆円に上る大規模な公共事業費を計上した。(3)民間投資を喚起する成長戦略アベノミクスの「第3の矢」は、「民間投資を喚起する成長戦略」である。この方策として「日本再興戦略」が2013年6月14日に閣議決定された2。これは「成長への道筋」として、「民間の力を最大限引き出す」、「全員参加・世界で勝てる人材を育てる」、「新たなフロンテイアを作り出す」、「成長の果実」を国民の暮らしに反映させるということを掲げている。そのうえで、A)産業再興プラン(民間投資を喚起するとともに、人材の育成やイノベーションを創造する力を強化して労働生産性を高め、民間の潜在活力を最大限に発揮させる市場機能を高め、産業基盤を強化する)、B)戦略市場創造プラン(規制改革を進めるとともに、ビジネス展開を支えるインフラを整備することで、社会課題をバネに新たな成長分野を開拓する)、C)国際展開戦略(我が国の強みを活かして拡大する国際市場を獲得し、世界のヒト・モノ・カネを日本にひきつけることにより、世界の経済成長を取り込んでいく)という3つのアクション・プランを優先的に取り組むべき施策として打ち出している。このように「日本再興戦略」の実行に向けて、政府を挙げて全力で取り組むこととなったのである。「経済財政運営と改革の基本方針~脱デフレ・経済再生~」(2013年6月14日閣議決定)においては、その具体的方策は以下の通りとされた。A)産業再興プラン:①民間投資の拡大等(中小企業・小規模事業者の競争力強化を含む)、②人材活用と人材育成の強化、③科学技術イノベーションの促進等、④成長を促進する金融、公的・准公的資金の運用等、⑤規制改革等、⑥安価で安定的なエネルギ―の需給。B)戦略市場創造プラン:新たな成長分野である健康長寿、クリーン・経済的なエネルギー、安全・便利で経済的な次世代インフラ、世界を惹きつける地域資源といった分野の成長を助長。C)国際展開戦略:①実質国民総所得(GNI)増加策の採用、②TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の経済連携の推進、③貿易・投資促進によるハイブリッド成長の促進。閣議決定された日本再興戦略の実効を加速し、強化するために、2013年10月1日に、「成長戦略の当面の実効方針」が全閣僚で構成される日本経済再生本部で決定された3。同年秋の第185回臨時国会では同戦略実行のための9つの法案が成立した。この中には「国家戦略特別区域法」や「産業競争力強化法」などが含まれていた4。2014年1月24日には、21日に日本経済再生本部(本部長・安倍晋三首相)が決定した「産業競争力の強化に関する実行計画」が閣議決定された5。現在、法人実効税率の引き下げも成長戦略にとって必要であるという議論などが行われている。中小企業に関しては、「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」(2013年6月14日閣議決定)において、産業再興プランの中で「中小企業・小規模事業者の革新」が、戦略市場創造プランの中で「世界を惹きつける地域資源で稼ぐ地域社会の実現」が、国際展開戦略の中で「潜在力ある中堅・中小企業等に対する重点的支援」が掲げられていた。「産業競争力の強化に関する実行計画」においては、中小企業・小規模事業者の革新」について、次のように述べられている。「中小企業・小規模事業者は、世界に誇るべき産業基盤であり、こうした産業基盤の革新が、地域経済を再生させ、我が国の国際競争力を強化することにつながる。このため、地域のリソースの活用・結集・ブランド化、中小企業・小規模事業者の新陳代謝の促進及び国内外のフロンティアへの取組促進を進める」と。2 閣議決定「経済財政運営と改革の基本方針~脱デフレ・経済再生~」2013年6月14日(内閣府ホームページ掲載)。閣議決定「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」2013年6月14日(内閣府ホームページ掲載)。以前から政府は成長戦略を立案していた。たとえば、2010年6月18日に「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ~」が閣議決定されている。2009年以降の成長戦略と「日本再興戦略」との違いについては、鎌田純一・柿沼重志・中西信介「日本再興戦略の概要と今後の課題-期待される「成長戦略実行国会」での議論の深化―」(『立法と調査』No.345、2013年10月、82ページ)を参照されたい。3 その概要は次のとおりである。①規制・制度改革のための基盤整備、②民間投資・産業新陳代謝の促進、③雇用制度改革・人材力強化、④構造改革等による戦略市場の創出、⑤地域ごとの成長戦略の推進と中小企業・小規模事業者の革新。4 企業再編や設備投資を促すための税制優遇などを持った産業競争力強化法については、柿沼重志・中西信介「産業競争力強化法案の概要と主な論点」参議院調査室『経済のプリズム』(No.120、2013年11月)等を参照。5 その「概要」において、重点施策として、①民間投資・産業の新陳代謝の促進、中小企業等の革新(「過小投資」・「過剰規制」、②イノベーションの推進、ITの活用、立地競争力の強化(フロンティア開拓のための「技術立国」、世界最高水準のIT社会を実現。産業基盤強化や都市の競争力を高め、企業が活動しやすい国を創る)、③全員参加型社会に向けた雇用・人材制度改革(失業なき労働移動を進め、女性や若者等の活躍の機会を拡大し、その能力を存分に発揮できる全員参加型の社会を構築する)、④戦略市場における競争力強化、国際展開の促進(エネルギ―制約や健康医療などの社会課題をチャンスと捉え、我が国の技術力を活かして、急速に拡大する世界の市場を獲得する、農業は見直す)などが挙げられている。

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