RSS2023
24/58

当協会ではこれまで多くの中小企業に対して経営支援を行ってきたが、経営支援が真に効果を発揮するためには、中小企業の経営者との対話において、経営者に経営課題の存在や改善の必要性に対する「気付き」を促すとともに、内発的動機付けにより経営者の改善に対する「やる気」を引き出すことが重要だと考えている。したがって担当者に求められるのは単なるヒアリング能力ではなく、共感を伴い信頼関係を構築するための対話・傾聴能力であり、当協会では外部講師による研修のほか、担当者による事例共有や情報交換等の内部研修を実施し、対話・傾聴能力の向上に努めている。これまで伴走支援グループが訪問した企業からは、「事業の具体的な悩みを話す人がいなかったので話を聞いてもらえて前向きな気持ちになった」「保証協会や専門家の方と話すことで自分では気付かなかった課題が見つかった」等の声が寄せられ、担当者の経営支援業務への取組みや更なる能力向上に対するモチベーションアップにつながっている。(2)金融機関や保証部門と連携した支援当協会では保証部門においても、ゼロゼロ融資の返済据置先へのアプローチを行っている。伴走支援グループとの違いは、①令和5年度に返済開始となる先だけでなく、全ての返済据置先を対象としていること、②保証部門では現況と経営支援ニーズの把握のみ行い、経営支援ニーズがある先は伴走支援グループに引き継ぐことである。ゼロゼロ融資の返済据置期間1年超の先や危機関連保証i等の制度については、これらの制度を利用している中小企業に対する定期的なモニタリングが金融機関に義務付けられており、モニタリングの結果については定期的に保証協会に「業況報告書」として提出することとなっている。伴走支援グループでも対象案件の抽出に「業況報告書」を活用しているが、保証部門では金融機関から提出を受けた「業況報告書」の記載内容から、資金繰りの改善や経営支援の必要があると金融機関が確認した先に対して、電話や訪問によるアプローチを行い、現況と経営支援ニーズを確認した上で伴走支援グループに経営支援依頼を行う仕組みとなっている。保証部門では、令和4年11月末時点で伴走支援グループに対して42先の経営支援依頼を行った。伴走支援グループが担当している企業数は約500者で直接担当できる企業数には限りがあるが、金融機関から提出を受けた「業況報告書」を活用し保証部門の人的資源を用いることで、より多くの先に効率的に目を入れることが可能となる。金融機関、保証部門と伴走支援グループの3者が連携した支援は、「必要とする先」に「必要な支援」を提供するための有効な取組みだと考えている。また、保証審査中心の保証部門の業務に経営支援の目線を取り入れたことは、組織として経営支援機能の充実・強化につながるだけでなく、人材育成の観点からも当協会の経営支援人材の裾野を広げる有意義な取組みとなっている。i 大規模な経済危機や災害等により中小企業の資金繰りが急速に悪化したと国が認定した際に実施される保証制度。22【事例紹介】板金工事業を営むA社は、高い技術力と代表者の積極的な営業活動により売上は回復基調にあったが、受注した工事の利益率が低い上に、人手不足により外注依存度が高くなっており採算性の悪化に悩みを抱えていた。金融機関から提出された「業況報告書」でA社の内容を確認した当協会の松戸支店保証課の担当者は、金融機関担当者とA社代表者の三者で面談を行った。面談の結果、A社の経営支援ニーズや経営改善の必要性が確認できたため、当協会が「ワンポイントアドバイス」と呼ぶ外部専門家による助言・提案支援をA社に対して行うこととした。松戸支店保証課を通じてA社から経営支援依頼を受けた伴走支援グループは、千葉県中小企業診断士協会に対して建設業に精通した中小企業診断士の派遣を依頼した。後日、伴走支援グループの担当者も同席し、中小企業診断士がA社代表者に対してヒアリングや帳票類等の調査を行ったところ、A社では受注案件ごとに原価計算を行っていないことや、特定の取引先に依存しているため原材料費が割高になっていることが判明した。話し合いの結果、A社が行うべきことは、売上の拡大ではなく利益確保のため受注案件ごとの原価計算の実施と、原材料の調達先を増やすことであるとの結論に達し、中小企業診断士が具体的な方法について提案・助言を行った。また、人手不足の問題についても、求人広告に記載する内容や

元のページ  ../index.html#24

このブックを見る