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サービス業以外の業種においても、ITやAIの発展に伴ってサービス化が進んでいる(角2016、延岡2016、増田2017、伊藤他2020)。例えば、製造業における非製造部門の従業員は、直接顧客にソリューションやアフターサービスなどのサービスを提供する業務を担う。それは、経験やスキルを必要とする業務であると同時に、「感情労働」を伴う業務でもある。労働は、肉体労働、知識労働、感情労働に分類され(Hochschild 1983)、肉体労働は機械に、知識労働はITやAIにとってかわられるという(Frey & Osborne 2017)。今後は、知識労働と感情労働の両方に取り組むような仕事が増加する。独創性の高い知識労働と、感情労働のような誰かを支援するために現場で即時に判断したり、創意工夫を重ねるような仕事である(高橋2013)。感情労働は、「対面あるいは声による顧客との接触」を通して行われるものであり、まさしく、サービス産業の従業員が行っている労働である。加えて、中小サービス業では、ITやAIの導入がままならない部分もあり、対面での顧客接触の比重が高く、感情労働を行うことからくる負荷が大きくなっている。従って、感情労働を行う上での負荷について認識し、就業環境を整えることは、従業員の定着とモチベーションアップにつながり、経験・スキルの向上に資する。中小サービス業においては、従業員の定着率とモチベーションの向上に(「感情労働」としての認識がないものの)「感情労働」の負荷軽減に資する対応を実施している企業が散見される。サービス業以外の業種においては、非製造部門従事者が増加するのに伴い、「感情労働」に着目し、中小サービス業が実施している感情労働負担軽減策を参考に、組織的に就業環境を整えることが期待されている。1 経済産業省「業種分類表」2 中小企業庁HP「中小企業のデータ」https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/basic_data/index.html  総務省・経済産業省「28年経済センサス-活動調査」による24図表1 中小企業の第3次産業における割合(企業数、従業員数)(資料)中小企業庁HP「中小企業のデータ」https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/basic_data/index.html    総務省「平成21年、26年経済センサス・基礎調査」、総務省・経済産業省「平成24年、28年経済センサス-活動調査」再編加工(筆者作成)一般財団法人商工総合研究所主任研究員中谷 京子はじめに「サービス業」は、日本標準産業分類の業種一覧表によれば、「第3次産業」のうち「卸売業・小売業」以外の「非製造業全般」を指す1。日本の第3次産業において中小企業が占める比率は、企業数全体の77.1%、従業員数では全体のおよそ48.6%。中小企業の労働者の約50%が第3次産業に従事している2。1.中小企業の第3次産業における割合日本の第3次産業において中小企業が占める比率は、企業数全体の77.1%、従業員数では全体のおよそ48.6%。中小企業の労働者の約50%が第3次産業に従事している状態である(図表1)。産業のサービス業化への対応に関する一考察― 感情労働の視点から ―

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