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加えて、感情労働は、従来の労使関係のように、雇用主に対して労働を提供するという2者間の関係ではなく、顧客も含めた3者間の関係となっているため(図表3)、労働者が自発的にもしくは顧客の要求により必要以上の感情労働を行う可能性があることも指摘されている(田村2018、李2021)。このように、「感情労働」は労働者に感情面でのストレスを与えるものとなっている。中小企業では、少数の特定の顧客のニーズに対応することが出来る柔軟性がある一方、経営資源の制約や取引交渉力の弱さといった問題を抱えている(奥山2020)。取引交渉力の弱さから、感情労働の負荷が大きくなることが推察される。しかしその後、感情労働は、個人に何等かの心理的負担を与える可能性が高いが、同時に仕事の成果を向上させる可能性もある。つまり、感情労働が相手の役に立つという満足感や達成感からモチベーションアップにつながることが指摘された(Zapf & Holz 2006、野村2018、三輪2022)。そして、必ずしも給与が高いことが高いモチベーションに結び付くわけではなく、承認欲求が重要な要素となるという(橋本2017)。このように、感情労働への対応は、感情労働の負荷を取り除くための対応と、感情労働に正の効果を与えるものに分けられる(図表4)。その中に、感情労働の負荷を取り除くための対応として個人レベル、グループレベル、組織レベルの対応があり、また、正の効果を与えるものとして顧客の評価、組織の評価(体制)がある。このうち、感情労働の負荷を取り除くための対応の「グループレベル」と「組織レベル」、感情労働に正の効果を与える対応の「組織の評価(体制)」において、雇用者側が取りうる対応を取り上げる。組織的な対応と言うと、大掛かりな対策や、研修プログラムの充実という形にとらわれてしまうが、本来は当該職場で必要とされる感情労働の要求レベルを職場のメンバー全員が理解することからスタートするという試みが有効である。部署内の一人ひとりの職員が仕事として行っている感情労働(感情コントロールの負担)を、組織内でお互いに共感しながら、理解し合える環境や空気感を醸成することが必要である(関谷2018、田村2018)。具体的には、現場におけるチームの管理監督者が、風通しのよい良好な職場環境づくりや、部下の心の見守りとサポート等、チーム力の強化により一層尽力することで、チーム力を高めることが大切である。組織レベルの対応としては、社内の制度や意識の醸成がある。報酬以外の条件で魅力的な価値提案ができれば高い報酬は必ずしも必要ではない(Herzberg 1966、Lovelock & Wirtz 2007)。つまり、一流のスキル、知識を身につけることができると認知されている場合や海外の有名な企業、大学院等教育機関への派遣制度が(組織レベルの対応策)図表3 労使関係と感情労働図表4 感情労働の負担への対応(李(2021)に基づき筆者作成)26(筆者作成)3.感情労働の負担への対応感情労働に関する初期の研究は、ストレス解消法、バーンアウトを回避する方法などが挙げられた(Hochschild 1983、 Constanti & Gibbs 2005、Lovelock & Wirtz 2007、山本・岡嶋 2019)。4.具体的な対応策(グループレベルの対応策)

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