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巻頭言千葉商科大学政策情報学部 学部長・教授朽木 量1経済産業省の中に「JAPAN+D」というプロジェクトが立ち上がっていることをご存知だろうか(https://www.meti.go.jp/policy/policy_management/policy_design/Japanese/index.htmlを参照)。「日本の行政にデザインアプローチを取り入れ、人に寄り添うやさしい政策を実現」するために、2022年3月に立ち上がったものである。同ホームページでは中小企業向けの政策立案のためのペルソナカードも公表されており、斬新な取組みがなされている。一般にデザインというと、色や形、構成を考えるグラフィックデザインや、工業製品のデザイン等のプロダクトデザインを思い浮かべがちであるが、デザインの本質は様々なコンテンツの最適配置を考えることである。従って、世界では組織やサービスの最適配置のデザインに始まり、ビジネス・教育・行政など社会全体のあらゆる局面に至るまでデザイン思考が求められてきている(ソーシャルデザイン)。実際に、デンマーク・イギリス・スウェーデン・チリ・シンガポール・台湾といった国々では、行政と連携した政策デザイン組織が立ち上がっている。そうした組織に共通する特徴は、行政にデザイン思考を取り入れ、人間中心を志向し、議論のプロセスを可視化し、政策プロセスに市民を巻き込んで、多様なアクターを主体的に結びつけて統合的な思考で問題解決を図るという点である。こうした政策デザイン組織が志向するものは、多元主義や全体論的思考、大衆目線などを標榜する政策情報学と極めて近しいものがある。かく言う商学研究科政策情報学コースの私の授業でもアンドレ=シャミネーの『行政とデザイン』(2019年 BNN新社)を使用して講義している。敢えてデザイン思考と政策情報学の違いを指摘すれば、デザイン思考に加え、アート思考を含むか否かである。アート思考は、合理的で違和感のない「同じもの」を求めるロジカル思考やデザイン思考と異なり、独創的な他と「違うもの」を求める。また、デザイン思考は既存の技術やコンテンツの組み合わせと配置で最適解を求めるのに対し、アート思考は既存の枠組みに捉われず、独創的な発想を無から生じさせる方法でもある。閉塞感の蔓延する日本にあって、それを打破する破壊的創造を求めてアート思考への関心が高まりつつあるのも首肯されるところである。このように、2000年に設置された政策情報学部はその設立当初からアート系・デザイン系の学びを内包しており、昨今のこうしたデザイン思考・アート思考への関心の高まりを予見していたかのようである。千葉商科大学の中小企業診断士養成プログラムには商学研究科政策情報学コース(旧:政策情報学研究科)も設立当初より参加しているが、「つながり力科目」などを通じて政策情報学の一端に触れることがあっても、政策情報学コースに入学して本格的に政策情報学を学んで修士課程を修了する学生は多くなかったのがこれまでの現状である。しかし、これまで述べたように、政策情報学と親和性の高いデザイン思考・アート思考への関心が高まってきている昨今、政策情報学を身に付けて中小企業診断士を目指す学生が一人でも多く生まれることが望まれる。中小企業診断士養成プログラムにおけるデザイン思考・アート思考と政策情報学

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