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外国語に対する親しみを持つこともこれからの多文化共生社会を生きる日本人児童にとって重要である。加えて、外国人材を保育従事者として活用することは、我が国の保育所における人材不足を解消する手段としても有効である。外国人材にとって、日本の保育士資格や幼稚園教諭免許を取得することは日本語力の問題などから容易ではない。しかし、これらの資格取得には国籍上の制限は存在しないため、制度上は外国籍であっても資格取得が可能である。ただし、現在、介護などと違って、保育士の職務内容に対応する在留資格は存在しないため、外国人が保育士として日本で継続的に働き続けるためには、「永住権者」、「日本人の配偶者」、「永住者の配偶者」などの在留資格を保有する必要がある。保育所内での語学教師であれば、「技術・人文知識・国際業務」で在留資格を取得できる可能性があるが、この場合は保育士の業務には従事できない。このため、日系南米人を始めとした在留外国人の子弟に着目したい。第2世代の在留外国人が指定保育士養成施設13への進学や保育士国家試験14の受験をすることができるように高等学校の段階における進路指導や学習支援の充実がなされれば、在留外国人の子弟を保育人材として育成し、活用する可能性が開ける。さらに、指定保育士養成施設進学後においても外国籍の学生のために授業や実習指導の工夫や就職支援の充実が必要である。外国籍学生が保育所に就職する場合は民間保育所では特段の問題が生じないが、公立保育所では国籍条項により外国人の採用を認めていない自治体があるので注意が必要である。ただし、職員の国籍条項を撤廃する自治体は増加傾向にあり、また、公立保育所が民営化される事例も各地で見られるため、外国籍の保育人材が活躍できる機会は以前に比べて広がっている。最後に、政策的に保育に投資を行うことの重要性について触れたい。2000年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者James Joseph Heckmanは、就学前の子どもを対象とした教育投資に関する研究を行い、就学前の子どもに対する教育投資の収益率は非常に高く、子どもの年齢が高くなるにつれ、教育投資の収益率が逓減するという研究成果を発表している(図表2参照)。このことから、生活の質の向上や経済的な成功には幼少期の教育投資が重要であり、就学前の教育に力を入れて子どもの潜在能力を伸ばすことが後の人生に大きな影響を与えると結論づけている。このHeckman(2006)の研究成果と外国人の子どもの多くが学校卒業後も13 厚生労働大臣の指定する保育士を養成する学校その他の施設で、児童福祉法第18条の6第1号で規定されている。14 指定保育士養成施設を卒業するほかに、年に2回実施される保育士国家試験に全科目合格することによっても保育士資格を取得することができる。34図表2 子どもへの投資に対する収益率の推移出典:JamesJosephHeckman(2006)“SkillFormationandtheEconomicsofInvestinginDisadvantagedChildren”SCIENCE,Vol312より筆者作成

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