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1 経済産業省大臣官房ビジネス・人権政策調整室「ビジネスと人権〜責任あるバリューチェーンに向けて〜」(2022年12月13日)参照。2 「「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)」ビジネスと人権に関する行動計画に係る関係府省庁連絡会議(2020年10月)1-35頁。36グローバルな活動を行う企業に対して責任ある行動が強く求められるようになり、企業活動における人権尊重への関心も高まってきている。2011年国連人権理事会で合意された「ビジネスと人権に関する指導原則」は企業活動における人権尊重のあり方に関する基礎的な国際文書となっている1。企業の人権尊重を促す政策が欧米各国で講じられ、グローバル企業は進出国の国内法令の遵守にとどまらず、国際的基準等に照らして行動が評価されるようになっている。これは企業規模を問わず、取引先も含む人権尊重の状況についてリスクの特定、適切な対策の実施を図る必要がある。企業活動における人権尊重は、ESG投資を構成する環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)のうち、社会に区分される重要な要であり、ESG資金の調達の視点からも重要性が増している。投資家側は、企業による人権分野の取組の情報開示、広範なステークホルダーとの対話を期待するに至っている。日本企業の取組を促す観点から、2020年10月日本政府は、国連指導原則等を踏まえ、「ビジネスと人権」に関する行動計画(NAP)を策定した2。企業活動における人権尊重は、社会的に求められる当然の責務で、経営上のリスクへの対処に資するものであり、国際社会の信頼を高め、グローバルな投資家等の高評価を得ることにも繋がることが改めて示された。②OECDからは、1976年「多国籍企業行動指針」が出され、多国籍企業に対して責任ある行動を自主的にとるよう勧告している。更に、2018年「責任ある企業行動のためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」により、「多国籍企業行動指針」を実施する実務的方法を提示している。③この他にも2000年国連グローバルコンパクトにおいて、企業に対し、人権・労働・環境・腐敗防止の4分野に関する10原則を順守し実践するよう要請している。ラギー国連事務総長特別代表(ハーバード大学教授)による「保護、尊重及び救済」枠組み報告が2008年第8回人権理事会に提出され、国籍企業と人権との関係を分類し、各主体が各々の義務・責任を遂行すべき具体的な分野と事例を挙げている。2015年9月には「持続可能な開発目標」(SDGs)を中核とする「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が国連サミットで全会一致で採択され、持一般客員研究員・中小企業診断士藤川 信夫1.ビジネスと人権尊重およびESG投資2.国連の指導原則などビジネスと人権の国際的なフレームワークとして、①2011年国連「ビジネスと人権に関する指導原則」では、ビジネスと人権の関係について、(ⅰ)人権を保護する国家の義務、(ⅱ)人権を尊重する企業の責任、(ⅲ)救済へのアクセス、に分類して人権を保護する国家の義務を確認すると共に、企業は企業活動、バリューチェーンにおいて人権に関する諸権利を尊重する責任があることが明記され、人権尊重の方法として人権デューディリジェンスの実施が規定された。中小企業におけるビジネスと人権デューディリジェンスの実際

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