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2全国の中小企業の経営者の方から、次のような言葉を聞くことがある。「ブランドは、大企業のもので、中小企業には関係ない」「規模が小さく、人もいないため、中小企業はブランドをつくれない」「歴史も伝統もない企業には、ブランドづくりは困難だ」ブランドは、大企業だけのものだろうか。歴史ある企業だけのものだろうか。それは違う。規模が小さい、広告宣伝費もない、歴史もない。そんな世の中の多くの企業にとっても、ブランドづくりは可能だ。では、どうすれば、強いブランドを生み出すことができるのだろうか。本稿では、中小企業のブランドづくりの方向性を検討していくことにしよう1。ブランドは、「マーケティングにおける最強の武器」ともいわれる。最近、ブランドへの関心は高まっている。地域経済の現場においても、「ブランド化が大切だ」「ブランドを活かした戦略的な展開」「ブランド化プロジェクト」といった言葉を頻繁に聞くようになった。だが、現実の取組みをみると、単なる販売促進活動や新商品開発であったり、ロゴの作成やパッケージのデザイン等にとどまるケースも少なくない。「ブランド」というカタカナ語は、耳あたりの良い言葉だ。「ブランド化」と聞くと、何となく分かったような気になる。企業や地域のブランドづくりのキックオフ・ミーティングなどで、「ブランドとは何ですか」と尋ねると、多くの人が答えに詰まってしまう。回答があっブランドづくりに成功するための第一歩は、「ブランドとは何か」について、メンバーのベクトルあわせをすることである。では、ブランドとは何だろうか。まずは、この点についてみていこう。ここで質問。ここに同じ味、同じ価格の2つのコーヒーがあるとしよう。1つには、「スターバックス(STARBUCKS)」と書いてあり、もう1つには、「スターコーヒー(STARCOFFEE)」と書いてある。さて、あなたは、どちらを選ぶだろうか。繰り返すが、価格、品質は全く同じだ。実際に、全国の消費者1,000人に聞いてみた(岩崎,2021)。その結果、回答者全体の92%が「スターバックス」を選んだ。「スターコーヒー」を選んだのはわずか8%だ(図表1)。1 本稿は、岩崎(2013,2017,2021)をベースにまとめたものである。図表1:選ばれるのは、強いブランド出所)岩崎(2021)1.はじめに2.ブランドとは何か静岡県立大学 経営情報学部 教授岩崎 邦彦たとしても、答えはバラバラだ。ある人は「知名度の向上」、ある人は「プロモーションをすること」、ある人は「ロゴやポスターをつくること」、ある人は「セールス活動」など、ブランドの捉え方は様々だ。ブランドづくりにおいて、「何となくわかったような気になる」という状態は極めて危険である。同床異夢の状態では、適切な意思疎通ができない。3.ブランドは「品質」を超える 【評論】中小企業のブランドづくり

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