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39止・軽減することが求められる。(ロ)負の影響の防止・軽減の検討すべき措置には、①他企業が引き起こしている負の影響を自社が助長しているときは、自社による措置では負の影響を完全に解消することは難しいものの、助長する自社の活動を停止した後に、更に残存した負の影響を最大限軽減するよう、関係者に働きかけを行うなど、可能な限り自身の影響力を行使するべきである。②自社の事業・製品・サービスと直接関連する人権への負の影響が生じている場合には、影響力を行使し、もしくは影響力がない場合には影響力を確保・強化し、または支援を行うことにより負の影響を防止・軽減するように努めるべきである。③取引停止については、相手企業の経営状況が悪化して従業員の雇用が失われる可能性など人権への負の影響がさらに深刻になる可能性もある。取引停止が適切でない場合、不可能または実務上困難と考えられる場合もあり、取引を停止あるいは継続する場合のいずれも、人権への負の影響の深刻度について考慮し、責任ある対応が期待される。また事業活動を行う地域の国家等の統治者の関与の下、人権侵害が行われることが想定される場合、即時に自社の事業停止や終了が求められるわけではないが、関連性について慎重に検討していくことは必要である。統治者の関与の下で人権侵害が行われている疑義が生ずる場合、関係者からの協力が得られずに人権侵害の実態を確認できず、あるいは負の影響を防止・軽減できない場合には、取引停止も検討する必要がある。④紛争等の影響を受ける地域からの責任ある撤退について、撤退企業を代替する企業が登場せず、消費者が生活に必要な製品・サービスを入手できないこと、あるいは撤退企業から解雇された労働者が職を得ることが難しくなったりすることが考えられるため、事業活動の停止・終了を判断する場合、強化された人権DDを実施し、通常以上に慎重な責任ある判断が必要である。撤退により影響を受けるステークホルダーに生じる可能性のある人権リスクについて考慮し、撤退の是非等について判断すること、事前に撤退計画を検討しておくこと、にリスク分析を行い、撤退計画の検討等の準備を始めることが期待される。⑤構造的問題への対処として、児童労働のリスクを増大させる就学難・高い貧困率、マイノリティー集団に対する差別等、構造的問題が生じている状況においても責任をもって事業を継続できるかについて検討しておくべきである。(ハ)取組の実効性の評価について、評価方法、実効性評価の社内プロセスへの組込、評価結果の活用などに基づいて継続的な改善を進める必要がある。評価方法には、自社従業員やサプライヤー等へのヒアリング、質問票活用、自社・サプライヤー等の工場等を含む現場訪問、監査・第三者による調査等がある。(ニ)説明・情報開示について、人権DDに関する基本的な情報を伝えること、負の影響への対処方法について説明すべきこと、受け手が入手しやすい方法により情報提供を行うことが期待される。(ホ)救済について、自社が人権への負の影響を引き起こし、助長していることを認識した場合、救済を実施、または救済実施に協力すべきである。自社の事業・製品・サービスが負の影響と直接関連しているにすぎない場合は救済を実施する責任はないが、負の影響を引き起こしまたは助長した他企業に働きかけることにより負の影響を防止・軽減するよう努めるべきであることに留意が必要である。救済の種類・組み合わせについて、具体的には謝罪、原状回復、金銭的・非金銭的補償、再発防止プロセスの構築・表明、サプライヤー等に対する再発防止の要請等が挙げられる。企業は苦情処理メカニズムの確立、あるいは参加を通じて救済を可能にするべきである。企業にとっては、苦情処理メカニズムを通じて得た情報や意見を人権への負の影響の特定、負の影響への対応に役立てることが可能となる。苦情処理メカニズムの充足すべき要件として、正当性、利用可能性、予測可能性、公平性、透明性、権利適合性、持続的な学習源、対話に基づくことが掲げられ(国連指導原則31準拠)、例として自社だけでなく、直接・間接のサプライヤーの従業員も利用が可能な苦情処理メカニズムの設置が示されている。他方、国家による救済の仕組みとして、①裁判所による裁判の他、②非司法手続では、厚生労働省の個別労働紛争解決制度、OECD多国籍企業行動指針に基

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