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8  ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議・前掲注(3)29-31頁、31頁(注86)。連絡窓口に自社に関係する案件の正当な申立が行わ9  日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部「「サプライチェーンと人権」に関する政策と企業への適用・対応事例(改訂第六版)」(2022年7月)1-76頁、森田多恵子・根本剛史・湯川雄介・三島隆人「ビジネスと人権:日本政府人権 DDガイドライン詳説(2)―人権尊重の意義、人権の範囲、人権尊重の取組にあたっての考え方―」西村あさひ法律事務所企業法務ニューズレター(2022年11月22日号)1-4頁、森田多恵子・根本剛史・安井桂大・加藤由美子「人権DDガイドラインの解説『ビジネスと人権』の最新動向とその対応」西村あさひ法律事務所N&Aリーガルフォーラムオンライン講演解説資料(2022年10月20日)1-81頁。40づき外務省・厚生労働省・経済産業省の三者で構成する連絡窓口(National Contact Point)、法務局における人権相談及び調査救済手続、外国人技能実習機構における母国語相談等が存在する8。国際取引法を巡る経済安全保障・経済制裁、人権保護・サステナビリティあるいはESG経営を巡る各国の新しい法規制の展開の下、CEOを始めとする経営陣のリーダーシップの発揮が一層重要性を増しており、規制動向について的確に対応し、成長機会・商機ととらえてステークホルダーに配慮しつつ中長期的企業価値向上、持続的成長を図ること、そのために経営陣主導で経営理念、経営戦略と経営計画策定ならびに従業員向けの行動規範策定を含め、人権DDの対応などに向け全社的・戦略的な視点でリスクマネジメント態勢の構築・運用を進めること、などが経営陣に求められる。(以下、私見)。今後は、経営企画部や内部監査部など関連部署とも緊密に連携し、経営・法務の一体的把握・検討を重ね、守りのコンプライアンス法務の視点のみならず、適切な時宜に適切にリスクをとって企業価値向上を図ったか等、の積極的妥当性の検証などPDCAの視点に立った総合的なガバナンス態勢確立が望まれる。ビジネスと人権保護への対応の必要性については、中小企業も例外ではなく、欧州各国・EUの規制においては扱いに差異があるものの、国連指導原則においては企業規模による相違は設けられていない。サプライチェーンにおいて直接・間接に影響のある下請企業・部品製造企業などを企業としては、具体的対応を準備する必要がある。サプライチェーンあるいはグループにおける親会社等から見て、全体に亘って人権侵害がないように、また人権侵害の防止のために不当な負担やしわ寄せが契約面で下請け企業などにかかっていかないように配慮が必要になる。川上の中小企業側から見た独自の考察・検討も重要になろう。消費者に近い、川下分野の人権保護の対応の必要性も唱えられている9。人権デューデリジェンス(DD)は、企業のステークホルダーの人権への負の影響を特定、予防、軽減し、対処方法に関する説明責任を果たすためのプロセスと定義され、企業が事業活動において人権侵害を行っていないか調査・評価し、対応と開示をする一連の手続きを指している。企業のステークホルダーは、企業が人権尊重責任を負う利害関係者であり、自社の従業員のほか、取引先の従業員、顧客、地域住民等を広く含むことになる。以下では、中小企業において特に留意すべき視点を主に、見ていきたい。中小企業がとり得る現実的な対応として、①対象とする取引先の選別において、直接取引先の他に間接取引先や海外取引先を含めるか、サプライヤー(仕入先)と共に顧客(販売先)も対象とするか、が課題となる。②リスクの洗い出し、調査範囲と調査方法について、人権侵害の深刻度、発生可能性を踏まえて優先順位を付け、調査範囲を確定する。調査方法は、資料精査やオンライン調査のほか、現地調査、ステークホルダーのインタビュー等の実地調査が人権リスクの具体的確認・評価のために求められる。中小企業では、人権デューデリジェンスの全部の場面で厳格な実地調査、ステークホルダー・エンゲージメントを実施することは現実的ではない。質問票を送付して回答を求めるセルフアセスメントを実施し、回答内容に懸念がある場合は踏み込んだ調査(管れた場合、企業は問題解決の手段の1つとして連絡窓口を通じた対応も真摯に検討するべきである。5.社内態勢整備-リスクマネジメント、内部統制の重視-6.中小企業における人権デューデリジェンスの実践

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