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41理職層・工場長等のインタビュー、現地調査)を求める対応も考えられる10。対象となる人権リスクにリスクアプローチの手法で優先順位をつけ、また決して自社のキャパシティを超える対応を求めているのではないこと、違反の場合にも表明保証条項による契約解除と損害賠償請求では人権保護の点では逆効果になりかねず、コベナンツ(誓約)条項などサスティナブルな対応が求められること11、自社の経営リスクの枠組みではなく、あくまでも従業員等に及ぼす人権リスクを主に考えること、人権デューデリジェンスの実施をコスト負担と捉えずに、寧ろ収益機会と把握した積極的な経営姿勢が求められ、経営陣のリーダーシップ、経営戦略に組み込む経営判断などが重要になることが指摘できよう。の影響を引き起こす(cause)場合、企業が直接、または外部機関(政府、企業他)を通じて負の影響を助長する(contribute)場合、負の影響を引き起こさず、助長もしないが、取引関係によって事業・製品・サービスが負の影響に直接関連する (directly linked)場合、の3類型の全てを人権DDの対象とする。ガイドラインでは人的・経済的リソースの制約等を踏まえ、規模、範囲、救済困難度という深刻度の判断基準に基づき優先順位付けをし、人権DDに取り組むことも認める。自社が人権への負の影響を引き起こし、または助長している場合、防止・軽減措置をとり、他社が引き起こす負の影響が残存する場合は最大限軽減されるよう、自身の影響力を行使する。自社事業等が負の影響に直接関連している場合、負の影響を引き起こし、助長している企業に対して影響力を行使し、影響力がない場合には影響力を確保・強化、支援を行うことにより負の影響を防止・軽減するよう努める。取引停止は、寧ろ人権への負の影響を深刻化させる可能性すらあり、最後の手段として検討される。取組の実効性の評価、説明・情報開示のほか、救済方法として謝罪、原状回復、金銭的・非金銭的補償、再発防止プロセス構築・表明、サプライヤー等に対する再発防止策の要請があり、負の影響を受けたステークホルダーとエンゲージメントして決めることが重要となる。現地法で救済方法が定められている場合もある。苦情処理メカニズムを自社あるいは、業界団体等のメカニズムに参加して確立することで迅速な救済、潜在的な負の影響の早期把握が可能になる。[本稿は、公益財団法人民事紛争処理研究基金の研究助成金を利用した研究成果の一部である]10  水谷嘉伸(松田綜合法律事務所)「法制化も視野に 中小企業にも求められる人権デュー・デリジェンス」SMBCコンサルティング株式会社ソリューション開発部経営相談グループNetpress第2207号(2022年9月12日)参照。「人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)」日本弁護士連合会(2015年1月)1-114頁、山田美和「ビジネスと人権―中小企業の役割と責任」商工金融(2022年5月)62-63頁、田中晋「国際経済連携推進センターが中小企業向け人権DDガイドラインを公表」ジェトロ日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部(2022年2月15日)。11  藤川信夫「コロナ禍とサスティナビリティにかかる国際契約の課題と展望―グローバル・リスク管理と実務対応―」千葉商大論叢第59巻第3号(2022年3月)247-270頁。12  田代夕貴・渡邉純子・加藤由美子(監修:森田多恵子・根本剛史)「ビジネスと人権:日本政府人権DDガイドライン詳説(4)―負の影響の範囲―」西村あさひ法律事務所企業法務ニューズレター(2022年12月19日号)1-4頁、田代夕貴・加藤由美子・森田多恵子・根本剛史「同上・DDガイドライン詳説(5)―負の影響の特定・評価―」同上(2023年1月5日号)1-7頁、稲岡優美子・根本拓(監修:森田多恵子、根本剛史)「同上・DDガイドライン詳説(6)―負の影響の防止・軽減―」同上(2023年2月1日号)1-5頁。河野雄介「ビジネスにおけるSDGsサプライチェーンの契約上のガバナンス」国際商取引学会発表資料(2022年11月13日)1-36頁。7.負の影響の範囲、特定・評価、防止・軽減、是正に関する措置2022年5月経済安全保障推進法においても、重要物資の安定的な供給の確保に関する制度(第2章)・特定物資の指定とサプライチェーンの強靭化に関し、主務大臣が配慮すべき共通事項の1つに人権の尊重の勧奨等の対応が盛り込まれている。最後に、人権DDの実践において、大きなポイントとなる負の影響への対応の要諦を掲げておきたい。人権DDは、①事業、サプライチェーン、ビジネス上の関係における負の影響を特定・評価し(ガイドライン 4.1)、②停止、防止、軽減し( 4.2)、③実施状況を追跡調査・評価し( 4.3)、④負の影響にいかに対処したかを伝え( 4.4)、⑤必要に応じ是正措置等を行う(5)、という一連のプロセスにより行われる12。人権への負の影響について、企業が活動を通じて負

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