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第4章では、政府系金融機関による直接貸出と信用保証に注目している。いずれを企業が選好するか、制度利用によって借入額や設備投資がどのように変化するかという点に関する理論モデルにもとづく予想を示している。現実のデータによれば、信用リスクの大きな企業ほど信用保証を政府系貸出より選好するという点では予想通りだが、信用保証の方が政府系日経BP・日本経済新聞出版、2022年6月刊42序章で述べられているように、本書の目的は、中小企業金融が必要な流動性を供給し効率的な資金配分を行っているかを実証的に検証することである。企業や地域での資金配分の規模と効率性、中小企業金融における政府の役割、貸出市場における金融機関の行動という3つの側面に焦点を当てて、日本の中小企業金融が果たしている役割を本書は明らかにしている。本書では、政府統計、民間信用調査会社が蓄積するデータベース、行政データ、企業向けアンケート調査などから、企業、貸出契約、金融機関店舗など様々なデータにアクセスしている。その上で、計量的な手法に基づくアプローチと、個々のデータを公表されている集計量とは異なる形で再構成した上で示すアプローチという2つの分析アプローチを採っている。第1章では、中小企業の平均的な資金調達構造の特徴・変化を示すとともに、借入を行わない企業、過剰債務の可能性のあるグループの動向を追っている。日本の中小企業においては2000年代以降、金第2章では、個々の企業における有利子負債の増加・減少をそれぞれ足し上げた企業間の資金再配分に注目し、その規模や生産性との関係を分析している。日本では、経済の低迷期に資金再配分程度が小さくなった、中小企業では、生産性の低い企業から高い企業に資金が流れて資金の再配分を通じて生産性が上昇するということは起きていない、ということが明らかにされている。第3章では、地域間の資金配分に注目し、その実態と生産性との関係を分析している。各都道府県内の貸出には自地域内で集められた預金が最も多く用いられる一方で、集められた預金が他県への越境貸出に用いられることも一定割合ある。地域の生産性と地域間の資金の流れとの間には負の関係があり、預金が生産性の上昇している地域から低下している地域に貸出として提供される傾向が見られる。こうしたことを本章は見出している。第2部(第4章〜第8章)は、政府は中小企業への資金供給やその効率性の改善のためにどのような取組を行ってきたのか、取組にはどのような効果があったのか、ということを検討している。千葉商科大学名誉教授齊藤 壽彦融機関借入金への平均的な依存度は低下を続け、無借金企業も増加したが、債務超過中小企業の比率は高水準のままであり、金融機関などの支援がなければ事業の存続が難しいゾンビ企業が一定割合存在している。こうしたことが指摘されている。植杉威一郎著『中小企業金融の経済学  金融機関の役割 政府の役割  』はじめに日本経済にとって中小企業は生産や雇用などにおいて重要な役割を果たしており、中小企業を抜きにして日本経済を語ることはできない。この中小企業にとって金融が重要な役割を果たしている。中小企業金融の分野において、近年、実証分析を集成したきわめて注目すべき労作が刊行された。これが本書である。1.各章の概要本書の第1部(第1章〜第3章)では、日本の中小企業には十分な量の資金が提供されていたのか、企業間・地域間における資金配分は効率的なものであったのか、ということが検討されている。

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