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54『中小企業支援研究』編集委員長前田 進3月13日、およそ3年ぶりにマスク着用のルールが緩和されたというニュースが、朝から流れている。長きにわたるコロナ禍での「新たな生活様式」を、過去の時代と思う日がくるのかもしれないが、良きにつけ悪しきにつけ、この間に多くの事柄が変化した。気づかぬうちに消えてしまった生活習慣などもあったかもしれない。社会活動の中で大きく変化したものは、やはり、リモート社会ともいうべき非対面式活動であろう。およそ人間が互いの顔を見ずに社会活動を行うようになるとは、誰が想像したことだろうか。外出せず、会話を減らし、できる限り単独行動をとるよう促され、飲食店での食事も制限され、まさしく人々は切り離されていった。しかし、このような困難な環境の中でも、企業は最初の1年ほどで対応策を見出し、物理的に出社しなくても業務を進められるシステムを構築していった。さらに2年目になると、そうした勤務形態は一層整備され、システマティックに運用されるようになる。そうなると、人々は必ずしも勤務地に近いところに居住する必要はないのではないかということになり、東京都は初めて転出超過という珍しい現象を引き起こした。もっとも、この現象は、1年で逆戻りし、昨年には大阪や埼玉、千葉、神奈川などとともに再び転入超過となっている。そうした中で、いよいよコロナ感染症の鎮静化が、感染者の減少という形で目に見えてくると、いち早く出社命令を出して物議をかもした企業もあるが、このコロナ禍を通じて間違いなく変化したものがある。それは、企業活動におけるデジタル化の進展である。デジタル化は、すでに様々な場面で適用され、大企業とそれを活用する個人の間では相互作用を通じて、頻繁に、新たな価値の共創が何層にも繰り返されてきている。しかし、中小企業の多くは、これまで、そうしたデジタル化の流れから取り残され、或いは、その一部とかかわる程度であった。その流れが変化してきたのが、このコロナ禍の3年間であったように思われる。企業がデジタル化に取り組むメリットには、生産に対する限界費用がほぼかからないことや、取引のための費用がかからないコスト削減の効果などと同時に、活動の際の時間や距離といった物理的な制約を受けずにすむことも大きい。デジタルを通じた取引形態を進展させるため、国もさまざまな制度上の取り決めを簡略化させてきており、人材やコスト面での不利を軽減させ、取引上の企業規模にとらわれない側面もある。これは中小企業やさらに小さな規模の、ニッチ市場を形成する企業にとっても有利な状況を生み出している。国の後押しも受けて、いよいよ中小企業のデジタル化が進行してきたように思えるのである。その形は、未だデジタル・トランスフォーメーション(DX)といわれる新たなビジネスモデルの確立までには至っていないかもしれないが、何らかのデジタル技術を企業活動に取り入れるだけの段階を経て、既存のビジネスの仕組みを変革し、顧客に新たな価値を提供する「デジタライゼーション」の段階に進もうとしている。企業のサービス化が進む中で、このような事業活動の変革に中小企業が取り組み始めたことは、ビジネスの仕組みを大きく変える一歩となるに違いない。今号で紹介された中小企業の事例でも、そうした兆しが目に見えるところまで来ている。ご寄稿いただきました皆様に心よりお礼申し上げるとともに、本誌が皆様の事業継続のお役に立ち、また中小企業の経営支援研究の一助となれば幸いである。編集後記

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