RSS2023
8/58

6ブランドづくりは、サイエンスとアートの融合である。強いブランドは、顧客の「理性」(頭)だけでなく、顧客の「感性」(心)にも訴求している(図表5)。顧客を引きつけるためには、機能性の訴求によって、顧客の理性に訴えることは有効である。だが、それだけでは、強いブランドにはならない。ブランドづくりには、ネーミング、パッケージ、デザイン、物語、ディスプレイ、接客などで、顧客の感性や情緒に訴えていくことも欠かせない。21世紀の企業経営は、「良い悪い」だけの勝負ではなく、「好き嫌い」の勝負でもある。消費者の「心」をとらえることができれば、「良い商品」が「好きな商品」に変わるはずだ。強いブランドは、独自の価値を消費者に提供している。「無難」「平凡」「平均」「普通」「まあまあ」「そこそこ」は、どれもブランドづくりのNGワードだ。まだ世の中に「難」が多かった過去は、「無難」だから選ばれた。かつて、日本が貧しかった時代は、「平凡」が魅力だった。だが、今は違う。「無難」や「平凡」に魅力を感じる人はいないはずだ。今は、「無難=難有(なんあり)」の時代である。「平凡」という名の雑誌も、今は廃刊だ。強いブランドをつくりたければ、「脱・無難」、「脱・平凡」で、周りがやっていないことをやる必要がある。ブランドづくりにおいて、「前例主義」や「皆さんご一緒に」の発想は危険だ。誰でも作れるもの、すでに世の中にたくさんあるものは、ブランドになることはない。そもそも、皆が簡単に真似できることでは、ブランドは生まれない。生みの苦しみがあり、簡単に真似できないからこそ、ブランドなのである。ブランドづくりに成功するためには、「過去に例がないから」やらないのでなく、「過去に例がないから」挑戦する。「大変だから」やらないのではなく、「大変だから」挑戦するという発想が欠かせない。価格を下げなければ顧客を生み出せないとすれば、それは「ブランド」ではなく、ただの「商品」だ。強いブランドは、「価格以外の魅力」で顧客を引きつけている。消費者がブランドに求めているのは、「低い価格」ではなく、「高い価値」である。強いブランドをつくるためには、「いかに安く売るか」ではなく、「いかに、安く売らないか」に知恵を絞るべきだろう。価格の安さでは、顧客との絆はつくれない。価格で引きつけた顧客は、価格で逃げていく。価格の安さで利用していた人は、別の企業が安売りをすれば、そちらに行ってしまうということだ。「低い価格」ではなく、「高い価値」で顧客を引きつけるのがブランドである。強いブランドには、「情報発生力」がある。「発信力」ではない。「発生力」だ。具体的には、新聞、テレビ、雑誌などのメディア経由で、そのブランドの情報が取り上げられやすいということである。自分で「この商品はすばらしい」と広告するよりも、「この商品はすばらしい」とメディアが伝えてくれた方が、はるかに信頼性が高く、説得力も強い。さらに、記事や番組情報は、広告と違って、基本的に無料だ。どうしたら地元メディアや報道機関が情報を取り上げたくなるのかを考えて、積極的にメディアに情報提供をしていくことが大切である。強いブランドには、「口コミ発生力」がある。「顧客が、顧客を生み出す」というメカニズムが作用し 強いブランドの特性③ 独自性がある 強いブランドの特性④  価格以外の魅力で顧客を 強いブランドの特性⑤  情報発生力がある 強いブランドの特性⑥ 口コミ発生力がある引きつけている図表5:強いブランドは、買い手の「頭」と「心」に訴える出所)岩崎(2017)

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る