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43中小企業支援研究 Vol.21.戦後中小企業政策の推移概観1. 1 経済復興・高度成長準備期1940年代後半(1945年8月の敗戦から1949年のドッジ不況まで)の我が国経済は、経済復興期と位置づけることができる。この時期には、独占禁止法が制定され、経済民主化が推進され、経済力集中への対抗力の育成等の観点から、健全な中小企業の育成が図られることとなった。このために1948年には、中小企業庁が設立された。同庁が、今日に至るまで、中小企業政策の中核、司令塔となっているのである。経済復興期に、金融、組織化、診断・指導といった「中小企業政策の基本的ツール」が整備されている2。ただし、金融対策は貧弱であった。我が国は1950年代前半(1950年6月の朝鮮戦争開戦から1954年11月まで)に本格的戦後復興期、高度成長準備期を迎えた。この時期には合理化投資が行われている。大企業体制が復活してきて、中小企業の不利が構造化してきた。このもとで、ようやく金融対策が活発化した。一方、経済民主化理念は退潮化していった3。1. 2 高度経済成長期我が国経済は1955年頃から、高度経済成長の時期に入った。1954年11月から1964年10月までの第1次高度成長期は、民間設備投資主導、重化学工業中心の高度成長期であった。この時期には国際競争力の強化と産業構造高度化が目指された。生産と消費の矛盾から1965年頃には不況、証券不況が生じ(1964年10月~1965年10月)、高度成長はいったん頓挫した。だが不況は間もなく克服され、1960年代後半~1973年夏まで(1965年10月~1973年10月)は、輸出に支えられた第2次高度経済の時代となった。日本の国際競争力の強化を背景として、1968年以降、貿易収支の黒字構造が定着した。高度経済成長期に経済を主導したのは輸出貿易を担う大企業であり、産業政策は大企業の振興・支援に軸足が置かれていた。中小企業は大企業からの注文を受け、そのサプライヤーとして機能し、大企業とともに中小企業も発展していったのである4。この高度成長期には、大企業と中小企業の発展速度に差が生じ、生産性・賃金・技術・資金調達面等において様々の格差が顕在化した。また、中小企業は、大企業を頂点とする系列に組み込まれ、下請構造が定着化していき、不利な状況を強いられることとなった。こうして、大企業と中小企業の間の二重構造の問題が顕在化するようになったのである。そこで1963年7月になって「中小企業基本法」が制定された。同法は、経済的に劣後する中小企業という弱者を救済するという強い理念を有するものであった。産業構造を高度化し、産業の国際競争力を強化して、国民経済の均衡ある発展を図ることを究極の目的とし、具体的な目的を中小企業と大企業との生産性格差是正においていた。経済取引の不利の是正、下請関係の弊害の克服も意図されていた。このための施策として、規模適正化・集約化策と事業活動の不利補正策が採用された。かくして1963年に中小企業近代化促進法、1966年には官公需法制定による政府調達における中小企業の契約の促進等からなる不利の是正策が行われたのである。また、1967年には、近代化・高度化のための資金供給と人材育成等を行う中小企業振興事業団が設立されている5。1960年代には、低賃金を経営基盤とする中小企業は多数派ではなくなり、二重構造問題は解消していったのであった。ただしこのことは中小企業問題そのものの解消を意味しないのである6。1. 3 安定成長期1973年10月に第4次中東戦争が勃発し、第1次オイル・ショックが発生した。これにより日本経済は高度経済成長が終了し、同年12月に安定成長の時代へ移行した。安定成長期にも中小企業は大企業の下請関係を維持していたが、これにとどまらず、独立して新たな分野を開拓していくベンチャー企業が登場している。日本の国際競争力の強化などによる輸出の増大を背景として、1960年代末以降、日米貿易摩擦が生じた。このために、他先進国と競合しない、内需主導型の産業構造の構築が急務となった。かくして安定成長期には、中小企業基本法が目指していた産業構造高度化と国際競争力の強化方針が行き詰まったのであった。2 中小企業庁編『中小企業白書』2011年版、76ページ。3 渡辺幸男・小川正博・黒瀬直宏・向山雅夫『21世紀中小企業論』有斐閣、初版、2001年、新版、2006年、第11章「戦後日本の中小企業政策の変遷」(黒瀬直宏執筆)、292~301ページ。4 村本孜「日本型モデルとしての中小企業支援・政策システムー中小企業金融を中心とした体系化」成城大学経済研究所『経済研究所年報』2014年4月、165ページ。5 渡辺幸男他編、前掲書、302~306ページ。村本孜、前掲論文、166、171ページ。『中小企業白書』2011年版、76ページ。6 渡辺幸男他編、前掲書、第4章「戦後日本の中小企業問題の推移」(黒瀬直宏執筆)98ページ。

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