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44中小企業支援研究研究ノートこのような状況のもとで、中小企業基本法に代わる新たな基本構造は明示されなかった。だが、1970年代には国際競争力強化を目指す産業構造の構築という政策は知識集約化路線へと転換した7。知識集約化(知的労働の投入度の拡大)の方向性が強調され、技術、人材、情報等のソフトな経営資源の充実を図ることが必要とされたのである。一方で、中小企業の事業転換の重要性が認識され、1976年には中小企業事業転換法が制定された8。産業調整的適応策として、新分野進出促進策、創業・新事業支援策も開始された9。1985年のプラザ合意後の急激な円高とこれに伴う不況時には、中小企業の事業転換支援が行われている10。1. 4 経済停滞期1980年代後半(1986年12月)に生じたバブル経済は1991年2月に崩壊し、日本経済は、今日まで続く経済停滞期に突入した。大企業はグローバルな事業活動を展開し、海外生産化を推進し、アジアにおいて分業体制を構築した。下請・系列など中小企業の存在を必要としてきた大企業が、多国籍企業化を図って国際競争力の維持・強化を図る経営戦略に転じた。戦後1980年代までは、大企業と中小企業とが一体となり、そしてそれを支援する金融・財政構造が構築されていたが、このような構造が「崩壊」していったのであった。下請制には不平等な取引関係という問題もあったが、中小企業にとっては需要を確保できるというメリットがあった。だがこのような下請系列関係は解体過程をたどっていった。従来販売市場を大企業に依存してきた中小企業は、これからの脱却、自立化が求められるようになったのである11。 中小企業数は1990年代以降「激減」した。中小企業開業率の低下や廃業率の上昇、完全失業率の上昇が生じた。これに対する対策として、政府は、創業・新事業創出を支援することが必要であると考えるようになった。また、消費者ニーズの多様化、IT 革命、グローバリゼーションの進展等を背景として、規模の格差是正の意義が低下し、多様性を有した企業の増大、少量多品種への対応が必要となり、中小企業が有する機動性・柔軟性が大きな強みとなるという認識が政府に生じることとなった。こうした状況の中、経済停滞移行後も継続されてきた「中小企業と大企業との格差是正」という中小企業政策の基本理念が改められることとなった。我が国経済の基盤を形成する中小企業に対して、その自助努力を尊重しつつ、きめ細かな支援を行うため、1999年に「中小企業基本法」が改正され、中小企業政策の抜本的な見直しが行われることとなったのである。中小企業は戦後様々な問題に直面したが、一方で、革新能力を持つ発展的存在という側面を持っていた12。新「中小企業基本法」は、従来の中小企業政策の基本的な課題である「中小企業構造高度化」という、大企業と中小企業の一体型の戦後企業・産業構造を円滑に機能し発展させるという政策を放棄し、大企業と中小企業が別々の企業として、中小企業についていえば、「多様で活力ある独立な中小企業の成長発展」を促進する政策へと転換するものであった13。低生産性の中小企業を底上げしようとする旧中小企業基本法は、中小企業の規模適正化・集約化を施策の柱にしていた。これに対して、新基本法は、創意工夫を活かし、経営革新・創業に意欲的な、独立した存在としての中小企業、「やる気と能力のある」中小企業に大きく軸足を移した。それは「経営革新・創業・創造的事業の促進」・「経営基盤の強化・資金供給の円滑化」、「経営環境変化への円滑な適応」を施策の柱としており、競争政策としての性格を持つものであった。このような政策は中小企業の発展性のみを評価したものであり、大企業体制が中小企業発展の壁になっている問題性に対する認識を欠いた、大企業優位の仕組みを変革するという姿勢が抜け落ちたものであった14。新基本法には、全商連も指摘したように、中小企業の経済的社会的制約による不利・格差を是正するという理念、目標が未達成であるにもかかわらず、格差・不利を是正する政策を後退させ、中小企業政策をいちだんと少数者支援(経営革新を進める意欲のある中小企業、新たな創業者等への支援)に重点を移すという問題点、小規模企業支援の軽視という問題点があったのである。 この間、1990年代後半には「中小企業経営革新支援法」(1999年)、「中小企業創造活動促進法」(19957 渡辺幸男他編、前掲書、307ページ。8 『中小企業白書』2011年版、77ページ。9 渡辺幸男他編、前掲書、306~307ページ。10 『中小企業白書』2011年版、77ページ。11 大林弘道「中小企業憲章と『もう一つの成長戦略』」公益財団法人政治経済研究所『政経研究』№.102、2014年6月、38~40ページ。渡辺幸男他編、前掲書、第6章(渡辺幸男執筆)149~156ページ。12 渡辺幸男他編、前掲書、第5章(黒瀬直宏執筆)117ページ。13 大林弘道、前掲論文、40ページ。14 渡辺幸男他編、前掲書、316~320ページ。黒瀬直宏『中小企業政策』日本経済評論社、2006年、254~279ページ。

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