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45中小企業支援研究 Vol.2年)、「新事業創出促進法」(1998年)という中小企業支援3法が制定され、これらが2005年に統合されて「中小企業新事業活動促進法」が制定されている。大企業が日本の国内経済をリードする力が衰えてきた中で、これらの施策による中小企業支援が図られたのである。新基本法に基づく政策は、実際には経営革新的中小企業の創出につながらなかった。長引くデフレと国内需要の減少、進展する経済のグローバル化と新興国の台頭、さらに2008年9月のリーマンショックによる経済的打撃もあり、新基本法において重視された「創業の促進」は低迷し、廃業率が開業率を上回る状態が恒常化したのであった15。バブル経済が崩壊したのち、不良債権問題が銀行にとっての大きな問題となり、その処理が大きな課題となり、貸し渋り、貸しはがしという問題も生じるようになった。経営上の困難を抱えた地域金融機関の経営の在り方も再検討されることとなった。このような状況を背景として、2002年度以降からは、金融庁は地域金融機関と借手との継続的な取引関係に基づく金融取引という地域密着型金融(リレーションシップ・バンキング)を奨励するようになった。これは中小企業を金融面から支援するという役割を担うものである16。2010年6月には民主党の菅直人政権が「中小企業憲章」を閣議決定した。これは中小企業政策にとってきわめて大きな意義を持つものであった。その核心は、中小企業政策を、中小企業が「経済を牽引する力であり、社会の主役である」と位置づけて実施すべきである、と宣言したことにある。その画期的意義は次の点にある。中小企業が「外からの変化に弱く、不公平な取引を強いられるなど数多くの困難に晒されてきた」ことを認めつつ、「中小企業は、社会の主役として地域社会と住民生活に貢献し、伝統技能や文化の継承に重要な機能を果たす」ものであり、中小企業が「豊かな経済、安心できる社会、そして人々の活力をもたらし、日本が世界に先駆けて未来を切り開くモデルを示す」ことを明らかにしたことである。中小企業憲章は、基本原則として、1.経済活力の源泉である中小企業が、その力を思う存分に発揮できるよう支援する、2.起業を増やす、3.創意工夫で、新しい市場を切り開く中小企業の挑戦を促す、4.公正な市場環境を整える、5.セーフティネットを整備し、中小企業の安心を確保する、という5原則を掲げている。政府の行動指針として、1.中小企業の立場から経営支援を充実・徹底する、2.人材の育成・確保を支援する、3.起業・新事業展開のしやすい環境を整える、4.海外展開を支援する、5.公正な市場環境を整える、6.中小企業向けの金融を円滑化する、7.地域及び社会に貢献できるよう体制を整備する、8.中小企業への影響を考慮し政策を総合的に進め、政策評価に中小企業の声を生かすという、8つの柱に沿った取組みを進めることを求めているのである17。2.近年における中小企業政策・小規模事業者政策の展開2. 1 中小企業関係法の改正2012年以降の中小企業政策を見てみよう。複雑化・高度化した企業の課題を解決し、経営力を抜本的に強化することを目的とする「中小企業経営力強化支援法」が2012年に制定された。同法に基づく経営革新等支援機関として、従来からの中小企業支援機関(商工会等)に加え、税理士・会計士・地域金融機関等が中小企業支援機関に認定されている。小規模事業者重視政策が2012年以降展開された。中小企業のうち、約87%を占める小規模企業は、経営資源が脆弱であり、近年、企業数・従業員数ともに大幅に減少を続けている一方で、地域の経済、社会、雇用を支える存在としての役割に加え、グローバル企業に成長して我が国経済を牽引しうる企業の苗床としての役割を有している。この小規模企業に焦点を当てて、中小企業政策の再構築を図り、小規模企業の活性化に向けた集中的な施策を講ずることとなったのである。2013年6月に「小規模企業活性化法」が成立し、同年9月に施行された。同法は、小規模企業の事業活動を図るために、中小企業基本法の基本理念に小規模企業の意義等を規定するとともに、小規模企業への情報提供の充実、小規模企業の資金調達の円滑化に係る支援等の措置を講じるものであった。その構成は、中小企業基本法の改正を含む8本の法律の一部改正と1本の法律の廃止となっている18。中小企業政策の基本理念は、従来の新中小企業基本法にみられた「やる気のある中小企業の支援」から、最新の中小企業基本法にみられる「きめ細やかな中小企業・小規模事業者の支援」へと大きく転換したのである。15 柿沼重志、中西信介「中小企業・小規模事業者政策の現状と今後の課題」『立法と調査』 No.344、2013年9月、117ページ。16 地域密着型金融については齊藤壽彦「地域密着型金融推進政策」『千葉商大論叢』第49巻第2号、2012年3月、21~39ページを参照されたい。17 「中小企業憲章」2010年6月閣議決定。大林弘道、前掲論文、33~36ページ。三井逸友「『中小企業憲章』と日本の課題」『三田評論』2012年2月号、64~67ページ。18 柿沼重志、中西信介、前掲論文、118~124ページを参照。

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