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50中小企業支援研究研究ノートに関する情報を正確に把握するためには多大な費用と労力が必要となるが、人的資源が十分ではない中小企業がそのような多大な費用や労力を個別に負担することは一般的には困難である。また、進出を予定している新興国が連邦制や州制度をとり、地方政府ごとに全く異なった法制度を有しているケースもある。そのような場合は、中央政府と地方政府それぞれの法令を正確に把握する必要があり、企業の負担はさらに増大する。現地における情報の収集に関わる課題については、海外市場で自社の製品の市場シェアを一定程度確保することができている中小企業は、進出先の海外現地企業からの情報収集、現地市場の視察、現地の市場調査等を行っているケースがより多い傾向にあるとされ、現地の最新情報を十分に収集できているかが、中小企業の海外展開の成功を左右する大きな要因となっていると考えられる。そのため、中小企業にとっては、行政機関や公的支援機関、金融機関等のネットワークや支援策を活用することで、海外現地の最新情報を継続的に収集する体制を整えることが重要となる。2.2 海外展開を主導する人材の確保・育成に関わる課題とその解決策中小企業が海外展開を成功させるためには、自社内に海外事情に精通し、海外展開に必要な知識や経験を豊富に持った人材を採用、もしくは育成し、そのような人材を現地に派遣して、現地法人の社長や工場長等として活躍させることが不可欠である。しかしながら、多くの中小企業においては、海外展開に通じた優秀な人材を確保することは難しく、新たに育成を目指すとしても、社内の候補者が一部の優秀な人材に限定されてしまうことが多い。また、仮に自社の優秀な人材を海外拠点に派遣してしまった場合、国内の体制が逆に手薄になってしまうといった弊害が起こりうる。自社内の日本人の人材不足の問題に対応するために、進出先の新興国において、現地事情に精通した現地人材を採用することは有効な解決策であると言えるが、現地人材を見つけて採用するにあたっても中小企業には優秀な人材の見極めが難しく、図表4のように「現地人材の確保・育成・管理」を課題と感じている中小企業が多い現状にある。そのため、中小企業の多くが「現地で信頼できる提携先、アドバイザーを確保する」ことを考慮するようになるが、現地の提携先、アドバイザーを確保する場合には、今度は信頼できる提携先、アドバイザーをどう見極めるかが海外展開の成功の大きなカギを握ることになる。中長期的な視点に立って考えれば、自社内で現地での勤務に対応できる国内の人材を養成する体制を構築することが解決策として最も重要である。例えば、従業員の渡航前においては英語や中国語等の外国語習得のための支援を行う、あるいは海外現地において生活するために必要な基本的知識や注意点等を事前に教えることが必要1であり、従業員の海外現地への渡航後は、OJTやマニュアル等を整備することによって、海外拠点において他の運営スタッフから、業務の引継ぎや海外拠点運営の支援を効率的・計画的に受けられる社内体制の構築が必要となる。その他の重要な点として、家族を含めた従業員の現地での日常生活のサポートが挙げられる。例えば、現地での安全な住宅の確保や現地の日本人学校への編入手続等、従業員家族の日常生活や子どもの教育に関わる課題解決を支援し、従業員とその家族の不安を取り除くことが重要である。また、日本人以外の人材育成を進めることも忘れてはならない。例えば、日本国内の大学等に留学している新興国出身の留学生を日本国内で採用し、将来の海外拠点における幹部候補として国内で育成することや、現地で採用した人材をOJTや研修で計画的に育成2することで、日本の本社と海外拠点の橋渡しを担う人材を育成することができる。2.3 海外現地における製品製造や商品販売に関わる課題とその解決策中小企業が海外展開を行う際の商品や製品に関わる課題としては、図表3及び図表4から多くの中小企業が「海外向け商品・サービスの開発」や「販売先の確保」等を自社の課題として感じていることがわかる。一般的に、中小企業が海外で事業展開を行って、自社単独で適切な立地に製造拠点を設置し、現地における販売先を独力で確保することは困難であるため、パートナー企業となりうる現地企業を選定して、その協力を得ながら現地で販路開拓を行うことが重1 一部の地方自治体は、県内企業の海外展開を支援するために、海外赴任者等を対象に現地ビジネス事情を学ぶ講座を開催しており、これらを有効活用することも人材育成の課題を解決する方策の1つである。例えば、静岡県では、県内企業の海外赴任予定者を対象とした、海外赴任先の現地事情、人事・労務管理、法務・税務、危機管理、ビジネスコミュニケーションを海外赴任前に教授する講座を開催している。2 最終的に、海外拠点・海外現地法人を現地出身の人材に任せる(「現地化」する)ことを目指すのであれば、現地出身の人材をどのように育成していくかが重要となる。

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