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52中小企業支援研究研究ノート要である。その一方で、提携するに値する適切なパートナー企業を現地企業から選定することは中小企業にとって容易なことではないので、現地の事情に通じた公的支援機関によるビジネスマッチング等の支援が必要となってくる。また、現地企業をパートナー企業として選定した後も、現地企業との連携体制やネットワークの構築の仕方等には様々な問題があるため、公的支援機関等に所属している専門家から継続して適切な助言を受けられる体制を構築することが課題となる。2.4 海外現地における資金に関わる課題とその解決策海外現地における資金に関わる課題としては、必要資金の確保が最も重要である。また、所得税や法人税、付加価値税など進出先の国の税制3や法制も的確に把握しなくてはならない。特に現地法人から日本の親会社に利益を還元する場合には、国境をまたいだ資金の移動となるため、進出先の新興国の税法を考慮することが必要となる。その他に留意しなくてはならない点は、進出先で新規に設置した企業が現地のパートナー企業との合弁会社である場合には、パートナー企業からの出資が期待できる反面、自社が合弁企業の経営の主導権を握るために資本の過半を自社で賄う必要があることである。そのため、自社で用意する必要がある資本金を現地通貨建て融資等で円滑に資金調達をすることが重要となる。2.5 海外展開の前提となる経営基盤に関わる課題とその解決策最後に、中小企業が事業を海外展開するためには、その前提としての海外展開に耐えうるだけの経営基盤の強化が必要不可欠である。国内において、海外展開の原動力となる技術力や顧客対応力、ブランド力の向上、財務基盤の強化による必要な資金の確保等を事前に成し遂げておかなければ、海外展開の実現はおぼつかない。自社の弱みを克服する、もしくは自社の持つ強みに磨きをかけるためには、国内において国や地方自治体、あるいは各公的支援機関が実施している中小企業支援施策を活用することが有効である。その際、注意しなければならない点は、今後海外展開を予定している国の現地市場の嗜好性を把握し、それに見合った強みを身につけることである。例えば、一般的に新興国においては、価格競争力と納期の短さが強みになる一方で、先進国においては高級感と希少性が特に強みとなる等、海外展開している現地市場によって強みとなり得るものに違いが生じるため、将来の輸出先あるいは進出先の現地市場を見据えた上で、自社の強みをどう活かせるかを判断して、その結論に沿って自社の強みを伸ばしていくことで海外展開の実現を図っていくことが企業の経営面において求められる。3.国による中小企業の海外展開支援体制前章で見たような海外展開を試みる中小企業が抱える課題に対して、国が本格的に支援を行うようになったのは、比較的最近になってからである。経済産業省は、2010年10月、わが国の中小企業の海外展開を支援するために、経済産業大臣を議長とする「中小企業海外展開支援会議」を立ち上げた。同会議では、2011年6月に中小企業の海外展開の促進を目的とした「中小企業海外展開支援大綱」を取りまとめ、さらに同大綱を2012年3月に改定することによって、金融庁、財務省、農林水産省の各省庁及び金融機関等の関係機関が連携して中小企業の海外展開を総合的に支援する体制を整備した。同大綱では、中小企業が必要な情報をきめ細かく提供し、支援記録の共有による一貫支援を行う「情報収集・提供」、商品開発、海外展示会への出展、インターネット活用による支援を行う「マーケティング」、海外展開に対応できる人材の育成や確保に関する支援を行う「人材の育成・確保」、金融面の相談体制の充実や資金調達の円滑化を行う「資金調達」、海外拠点設立情報の提供や税務・労務・知財等の支援を行う「貿易投資環境の改善」の5つの柱を重点課題として支援することとしている。これらの5つの柱は、前章で挙げた海外展開を行う中小企業が直面する課題の解決に向けて、支援を行うものとなっている。各地方経済産業局には、海外展開支援に係る一元的な相談窓口が設置され、JETRO貿易情報センターと中小機構支部との情報共有を通じて、地方経済産業局、JETRO、中小機構のいずれに相談しても同様の支援を受けることが可能な体制を構築した。3 進出先の新興国が日本との間で二重課税や脱税の防止を目的とした租税条約を締結しているかもポイントである。たとえば、東南アジア地域では、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーが日本との間で租税条約を締結していない。

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