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53中小企業支援研究 Vol.2支援体制の中核を担うJETRO及び中小機構は、既に海外展開を行っている中小企業を支援するだけでなく、これから新たに海外展開を目指す中小企業を支援するため、密接に連携して、海外展開の準備段階から契約締結段階までを一貫して支援している。具体的には、中小機構は、国内における海外展開支援を得意とし、海外展開戦略策定の支援や商品紹介の外国語対応支援等の海外展開に向けた準備支援、多数の外国人バイヤーが訪れる国内見本市への出展支援等を実施している。一方、JETROは海外での支援を得意とし、海外展示会への出展支援や海外バイヤーの招へい等による商談機会の提供、国外市場に関する各種情報の提供、外国企業とのマッチング支援等を実施している。政府系金融機関による支援も拡充された。中小企業の海外展開支援のために(株)日本政策金融公庫の融資制度の1つである「海外展開資金」が拡充され、また、中小企業の現地法人が海外現地の金融機関から融資を受けやすくするために、国際協力銀行が現地資本の金融機関に融資を行う等の資金面での支援策が強化された。さらに、第二次安倍政権発足後の2013年6月には、「日本再興戦略」が閣議決定され、中小企業向けの海外展開支援体制の強化4が打ち出され、今後の5年間で新たに1万社の海外展開を実現することが、数値目標として掲げられた。以上のように、国は従来、慎重であった中小企業の海外展開支援を積極的に行う方向に大きく舵を取ったが、次章では地方自治体の動向について考察をしたい。4.地方自治体による中小企業の海外展開支援4.1 中小企業の海外展開が国内雇用に与える影響地方自治体において、国際的な業務は当初は海外姉妹都市との交流等の一部業務を除いては地方自治体の業務として認識されていなかった。しかし、1980年代以降、地域の国際化の推進が注目されるようになり、地方自治体が地域の国際化を推進する主体として注目されるようになってきた。また、地方自治体も地域の付加価値向上に向けた地域戦略の一環として国際化戦略に取り組むようになった。また、地方自治体が国際化戦略に取り組む一方で、地域の産業界においても海外展開に取り組む中小企業の数が増加していた。そして、海外展開の方策に悩む地域の中小企業からの要望の増加を受けて、地域の中小企業の海外展開支援は、地方自治体の国際化戦略の中で、海外からの観光誘客や地域の農産物の海外輸出等と並ぶ、主要なテーマとして考えられるようになってきた。近年では、地域の中小企業の海外展開支援は、地方自治体にとって地域の国際化戦略のみならず、地域の生き残りのための産業成長戦略の一環として捉えられ、重点的に取り組まれるようになった。しかしながら、地方自治体が地域の中小企業の海外展開の支援に取り組むことは、地域住民の少なからぬ不安や反発を生じさせることになった。それは、地域住民から投げかけられる「地方自治体が地元の中小企業の海外展開を支援することで、地域の空洞化を助長してしまうのではないか。本来、地方自治体は地元に産業を残そうとする努力をするべきであるのに、全く逆のことをしているのではないか。」という言葉に代表されている。確かに、従来、海外工場での現地生産切り替えに伴って、日本の各地域に立地していた工場が操業を停止し、地域の雇用が失われてきたのは事実である。しかしながら、地域の中小企業が海外に事業展開をした場合、地域の雇用は本当に失われてしまうのだろうか?このことについて、中小企業白書2014年版では、以下の3点を挙げて、国内での雇用は減少しないと結論づけている。①海外市場を開拓し、売上拡大を図るための生産機能の直接投資は、国内生産を減らさない。(ただし、輸出を止めて現地生産に切り替えるといった国内生産の代替的な直接投資は、輸出のための国内生産・雇用を減少させる。)②海外での最終財の現地生産拡大に伴い、国内からの中間財の輸出が増える場合がある。③製造業が、生産以外の卸売・小売・サービスのための子会社を海外に開設する場合においては、国内雇用を減らすとは考えにくい。このことは、企業の海外展開が、コスト削減を目的とした国内生産の代替的な生産拠点建設を目的とするのではなく、事業拡大・新市場開拓といった積極的な目的を持つ場合は、国内での雇用の減少には4 「日本再興戦略-JAPAN is BACK」では、その他の重点的支援として、海外現地における「海外ワンストップ相談窓口」の創設、我が国企業の人材の育成とグローバル化の推進等の実施が具体的な支援策として掲げられている。

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