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る。社会的責任をしっかり果たし、企業価値を高める時代が到来しており、その意味でも、まさに本学で議論すべきことであると考える。本日のシンポジウムが、実り多きものになることを期待している。基調報告 …………………………………………金融庁 監督局銀行第二課地域金融機関等モニタリング室長日下智晴氏■これ以上「回り道は許されない!」今日、加速度的に進行する少子高齢化・人口減少社会の中にあって、回り道が許されなくなってきている。すなわち、物事の本質に対して真っすぐ進んで行かなければならないのだが、世の中には様々な事情があり、必ずしも真っすぐ進んで行けない現実がある。よって本日は、それら要因を極力除去し、如何に多くの関係者が中小企業支援に取組んでいけるかといった観点でお話をさせていただきたい。■中小企業憲章と金融行政方針金融危機発生から20年、地域密着型金融の変遷において、地域金融機関にとっては、金融庁からの「リレーションバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」(平成15年)の提出を受け金融機関の健全性の確保と円滑な金融仲介の実行を目指すことから始まり、リーマンショック(平成20年)を経て、「中小企業憲章」(平成22年)の閣議決定があった。その冒頭で、『中小企業は経済を牽引する力であり、社会の主役である』と謳われている。社会の主役である中小企業に対して、金融機関等支援者の関わり方の考察を求めているという観点からも、素晴らしい内容を包摂している。金融機関の関係者には、常時携帯を要望したい大事なものである。さらに、大きな変化である「金融行政方針」(平成27年)という究極的目標の明示があった。従来の金融庁は、金融機関の健全性、つまり不良債権処理を第一義的に考えていたが、「①金融仲介機能の十分な発揮と②健全な金融システムの維持」こそが金融行政の方針であることを同列並記させたことが重要である。なお①では、金融機関が担保・保証に依存した融資姿勢を改め、事業に対する目利き力向上を訴えた。そのうえで、企業の価値向上、経済の持続的成長と地方創生に貢献する金融業の実現を求め、産業全体や取引先企業の課題とニーズの的確な把握等を踏まえた事業性評価の実施を重点施策とした。とくに、直接企業に行うヒアリング・アンケートの調査に対して、ベンチマークを設けベストプラクティスを目指すことは画期的施策であった。■企業ヒアリング・アンケートから見えるもの金融庁が最初に着手すべき根本課題が顕著となった、平成27事務年度企業ヒアリング・アンケート(対象企業:ヒアリング751社、アンケート2,460社)において、「メインバンクの選択理由」への回答が「自社や事業に対する理解」が「融資の金利」の約3倍に達する一方、「金融機関への相談状況」は約3割が全く行っていない。その理由の最多回答が、金融機関提供の一般情勢情報と企業期待の特定業界動向情報との間の大きなギャップに起因した「いい情報が期待できないから」であり、さらに、「金融機関ではない他の相談相手がいる」というアンケート回答もほぼ同数あるという現実である。この回答が、金融庁が金融機関に対し事業性評価を含む企業に対する目利き力向上を強く求める要因でもある。さて、最大の問題である「運転資金の調達形態」への最多回答が「証書貸付」で、その理由は、「信用保証協会、又は金融機関の条件」であり、さらに、アンケート回答でも「借入形態について考えたことがない」が次いで多かった。また、信用保証協会の保証を利用している理由は「金融機関から勧められた」が7割に達する。しかも、金融機関に融資を申し込んだ後に信用保証協会の保証を求められ、かつ、その保証を断られた企業が3~4%(ヒアリング:30社、アンケート:88社)存在していたことは、金融庁にとって大変許し難く衝撃的な結果であった。なぜなら、あくまでも、信用保証協会は企業に対して保証する存在で、金融機関は自らリスクを取って企業に対して融資する存在だからであり、信用保証協会と金融機関が同じ判断が良かろうはずがない。この結果、これら事象は「日本型金融排除」であると金融庁は判断し、翌年(平成28年)調査に乗り出す原因となった。なお、「信用保証協会との接点」について、利用企業の7割超が「直接接触したことはない」と回答している。すなわち、信用保証協会の利用というのは、すべからく金融機関経由であって、金融機関側で全ての情報をコントロールし、中小企業が自社の状態を直接信用保証協会に申述することはない。また、長期条件変更先のうち担保・保証による保全が約8割を占めていることは、金融機関側からの関与による業況改善に向11中小企業支援研究 Vol.5

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