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けたインセンティブの欠如をもたらし、リーマンショック以降の信用保証制度の拡充による副作用であるともいえよう。これらのことは、企業のためにあるべき信用保証制度が金融機関のためにあり、一種のフリーライドを許しているのではないかとの懸念を招き、信用保証制度の見直し論議に繋がっていった。ここで、改めて金融機関の融資残高推移を確認しておくが、全業態でGDP伸長に併せて全貸出金が増え続けているが、実は平成11年開始の「金融検査マニュアル」によって、長期融資は漸増で短期融資は漸減している。主力貸出方法の短期継続融資は、場合によって条件変更債権に該当される危惧から、短期融資が長期融資に振替えられてきた経緯があり、リーマンショック以降その傾向は加速された。■短期貸出減少のメカニズム実例であるが、第20期に差し掛かっていた業歴のある中小企業Aは、従来より金融機関Bと正常な金融機関取引、すなわち、運転資金は短期継続融資、設備資金は長期融資で資金調達していた。しかし、Aは第20期に赤字計上するも、債務者区分は正常債権を維持していたが、赤字補填資金の借入が必要となり、Bに短期継続融資を求めたところ、信用保証協会の利用を提案された。Aに信用保証協会の利用実績はなかったが、Bの提案を受け信用保証協会に保証の申込みを行った。Aが信用保証協会に申込みをした際、初めての利用及び相応の決算内容も考慮され、9,000万円の長期の信用保証協会付きの長期融資が実行されてしまった。その瞬間、Aの実態赤字額は2,000~3,000万円にも拘わらず、9,000万円もの借入による余裕資金が生じたために、BはAの余裕資金から5,000万円の短期継続融資を回収し、この時点で短期継続融資を終えてしまい、結果的には2本の長期融資(①信用保証協会付き、②設備資金)が残る形となった。ここで発生したことは、短期継続融資であれば、BがAを定期的訪問(手形書換)していたが、長期融資は毎月Aの口座から約定弁済されるため、Bの定期的訪問の必要性が相当低下したことで、AとBの間で課題解決等のあるべき貴重なコミュニケーション機会が著しく減少した。つまりは、Bの努力不足による焦げ付きも想定し得るプロパー融資が、信用保証協会付き長期融資であれば、Aに不測の事態が生じたとしてもBに損失は及ばないことから、BがAとの協議機会の設定というインセンティブの喪失に繋がったともいえよう。ついには、Aは第22期に2回目の赤字計上で条件変更せざるを得なくなり、この後は条件変更先として二度と新規融資が受けられない状況に陥り、資金繰りに苦しむことになった。振り返るに、Aに対するBの信用保証協会付き長期融資の勧誘は有効だったのか、また、Bが短期継続融資の維持を決断していれば、Aの2回目の赤字計上→条件変更先の成行きはあったのか、さらに申せば、時宜を得たコミュニケーションがあれば、この成行きの回避可能性も否定できないのではないか。これこそが、中小企業と金融機関とのミクロの局面における課題である。加えて、経営者保証では、未だガイドラインの本格的運用が為されていない。地方銀行サンプル調査では、担保・保証ともにある4.7兆円の融資に対して、担保5.7兆円・個人保証5兆円=合計10.7兆円の担保・保証による保全が融資額を大幅に上回った。さらに、事業承継でも、新旧両経営者からの個人保証の徴求も約5割に達していた。いずれの事象も金融庁を驚愕させ、金融機関にはまだまだ果たすべき役割があるとの思いに至らしめた。■中小企業の資金繰りと金融機関の融資中小企業に対する事業性評価に基づく融資は大事であるが、中小企業は事業を行なっていくうえで、自己資本が相対的に少なく他人資本(設備資金と運転資金)を借入で賄う必要がある。運転資金に関して申せば、中小企業は「売上債権+棚卸資産-仕入債務」=「経常運転資金必要額(以下、ⓐとする)」を返済してはならず、金融機関はこの資金を回収することは、中小企業の首を締める行為であることを認識しなければならない。返してはいけないし、返ってきてはいけない資金を返してもらうこと自体、中小企業に対する円滑な金融が実行されていない証左である。なぜなら、ⓐはバランスシート上で常に他人資本により充当される必要があり、ⓐの返済を求めることは「次の仕入れをするな」と同義である。(参考:CRD協会調査…地域金融充足率3割)■リスクの考え方と知的資産分析の必要性もともと、事業リスクを取っているのは中小企業であり、その内の一部を金融機関が信用リスクという形で肩代わりしているという図式、つまり、金融機関の信用リスクに対して中小企業の事業リスクはより大きい。よって、本質的には中小企業がリスクテイクの主体であり、その中小企業を支援するのが12中小企業支援研究

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