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金融機関である。そもそも、金融機関が融資をすることに対して、担保・保証でそれを保全することに関して、中小企業の事業リスクには何の影響も与えない一方、事業性評価を行う、もしくは本業支援を行うという行為には、中小企業の事業リスクを軽減させる効果がある。すなわち、事業支援によって金融機関の信用リスクをも軽減させることは、不確実な資産がより確実にリターンを生む資産に変わっていくことであり、自らの貸出資産が収益性の高い価値ある資産であり続けること、それが事業性評価や本業支援によってのみ達成できるのである。したがって、金融機関は中小企業に対して、財務諸表の数値から表れた財務分析のみならず、事業から生まれる様々な知的資産(人的資産・組織資産・関係資産)を分析する知的資産分析が必要となり、事業性評価のポイントとなる。要するに、金融機関が財務諸表に表れる前の段階で、その中小企業がどのような事業を遂行し、事業リスクを取っているのかを分析することであり、これこそが金融機関に求められる知的資産分析の位置づけである。■事業性評価に基づく融資のプロセス敢えて申し上げれば、金融機関にとって事業性評価とは、必要条件であるが十分条件ではない。なぜなら、大事なことは事業性評価ではなく事業性評価に基づく融資であり、金融機関の仕事は事業性評価を行うことではなく、融資を行うことが第一義的なことであり、その融資が事業性評価に基づくものでなければならないからである。融資をせずにコンサルティングをするのであれば、コンサルティングファームの看板に掛け変え、金融機関であるべきではない。融資をするから金融機関であることを、くれぐれも忘れないでいただきたい。ここで、どのように事業性評価に基づく融資を行うのかを確認しておきたい。①営業店が企業に対してニーズや課題を問いかけ、②企業の事実情報を収集し、③その情報を評価情報に転換する、これが事業性評価である。その情報を事業性評価シートに埋めるだけでは事業性評価とはいえず、あくまで事実情報の収集に留まる。④その評価情報を企業にフィードバックし、⑤企業は事業への理解を深めてくれた金融機関に満足感を得て認識の一致に至る。⑥そこで初めて、営業店は融資を起案して本部の承認を得て融資を組み替えていく。これこそが事業性評価に基づく融資である。よって、その企業の事業状況を十分理解したうえで運転資金の補填が必要と判断したら、短期継続融資を充当することは当然の措置である。冒頭、物事の本質に対して真っすぐ進んで行く旨申し上げたが、それは、まさに経常運転資金必要額に対して短期継続融資を充当することを意としている。これら措置による企業の資金繰りの劇的な改善・安定を受け、⑦その後は様々なソリューションを提供して企業の満足度と生産性の向上を実現し、さらに、新規事業へのチャレンジ等の様々な動きを誘発し、結果的に企業の発展に繋がるという好循環が期待できる。したがって、金融機関にはこの一連のプロセスを俯瞰した観点で判断・行動をしていただきたい。なお、金融庁の調査(2013年3月期から2017年3月期の期間の利回り低下が緩やかな銀行(以下、ⓑとする)と厳しい銀行(以下、Ⓒとする)を30行選出)によると、その銀行が経営上の課題や悩みをよく聞いてくれる割合が、ⓑが多くⒸが少なく、かつ、その銀行が提供するサービスが役に立った割合が、ⓑが多くⒸが少ない、という状況が綺麗に表れ、この結果は金融機関を勇気づけるものであった。つまり、評価の高い金融機関は利回り低下が緩やかな金融機関であることが判明し、そのことは収益性の維持・向上にも直結するものなのであろう。■金融行政の変化と共通価値の創造現在の金融行政を纏めてみると、従来の金融検査マニュアルに基づいた行政は既に終了し、まずは、中小企業に対するヒアリング・アンケート調査から中小企業の声を聞いたうえで、金融仲介機能のベンチマークを設定して金融機関のベストプラクティスを奨励しつつ、最終的には事業性評価に基づく融資を行うことによって、中小企業との間で共通価値が創造されることを目指している。すなわち、共通価値の創造とは、金融機関の関わりにより中小企業の満足度を高め、金融機関も相応の利回りを確保できるという“ウインウイン”の関係が維持されることである。今後も金融庁は、このようなあるべき関係性の構築を目指して、金融行政を司って参りたい。一方で、金融機関は中小企業に対する必要な資金の融資方法を自らが考え、他人資本を確実に供給していただきたい。これこそが、本日の大きなテーマであり、事業性評価はもちろん、事業性評価に基づく融資というものがより重要であることを強調させていただき、本日の報告を終えたいと思う。13中小企業支援研究 Vol.5

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