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イム・シフト(枠組み移行)の実現に対応しなければならなくなっている。 このような短時間で激変する経営環境に遭遇する事態に経営体がどう対応すべきかに関して、日本学術会議の提言を先行研究として採り上げ、その活用を図ることとした。日本学術会議は2008年に「21世紀を豊かに生きるための科学技術の智」として「歴史的に継承してきた伝統的知識の中に持続可能性の智を認める」ことであると定義した。さらにそのために中世スコラ哲学の権威者オッカムの発言を引用し「あらゆる事柄を説明するために、必要以上に多くの実体を仮定すべきではない」と発想の単純化を求めた。複雑系科学の発想が主流である現代のマルチコンプレックス(多要因輻輳)的発想を革新し、多数要因の有効性を検証するより、その持続可能性を検証すべきであるとしたのである。換言すれば単純化とは、経営環境変動要因の持続可能性を検証し、それを欠く要因を無視するよう求めたものといえる。これは日本学術会議が全ての科学に求めている「サステナブル(持続)可能性」の基盤を構成する発想といえる。方 法日本学術会議の目指すところを戴して、コンサルティング・サイエンスが科学技術の智に到達するために、次の三つの面から検討するよう提言することとする。第一にコンサルティング・サイエンスを活かすプラットフォームとして、実在する経営体のマーケットの持続可能性を探索し、需要を失い消滅する産業分野を予見して、それに代わる新たなマーケットへの進出を促し「産業の新陳代謝」を円滑に実現するよう提言する機能が求められていることである。ここで敢えて「予想」ではなく「予見」という用語を選択した理由について説明する。過去分析に基づく趨勢基準を用いる予想は、的中することを前提とする発想であるのに対し「予見」は持続を不可能とする「断絶の時点」を想定して、退出又は新マーケットを目指すよう促す「見解の一端」という意味で用いている。したがって予見は確定した普遍的な発想ではなく、激変する経営環境に対応し、柔軟に経営体の在り方を革新することにより、持続を図る発想であり、状況によっては、「朝令朝改」もあり得ることを意味することとしている。現存するマーケットが将来どの時点まで継続して存在し得るかを見極めて「経営体の余命」を明確にし、日本学術会議の指摘する「非継続性の検証」を実証する行動といえる。第二に産業規模の二極化が「大規模メリット」実現を図るグローバル経営体と需要の多様化に対応して「小規模メリット」を発揮する小規模企業との併存を求めることとなる。大規模分野ではFANG(フェースブック、アマゾン、ネットフリック、グーグル)と云われる巨大産業が出現し、市場を席巻するとともに、小規模分野ではギグ(単発仕事)やテレワーク等でユニークさを競い、小規模のメリットを発揮している。小規模企業に期待されるのは、経済の構造的変革に迅速に対応し、新たな雇用を創出するとともに、働き方改革により、製造物責任関連産業(サービサイジング)、新サービス産業、第六次産業等のニュービジネスの担い手となることである。これがコンサルティング・サイエンスをベースとするコンサルティング・ビジネスの必要性を高め、小規模企業に助言する機会が創出されることとなるものと見込まれている。第三にコンサルティング・サイエンスを活かしたコンサルティング・ビジネスが、経営体に対して社会貢献を旨とするガバナンスを発揮するよう助言することにより、経営体の不祥事を未然に防ぎ、あるべき経営体行動が合法的に理路整然と遂行されるように導くことが期待される。時には小規模企業であることや、知らないことを理由とするアウトロー行動を採らないよう助言することがコンサルティング・ビジネスの役割となるものと想定される。さらに自らも、飽くまで経営体へのアドバイザー(助言者)としての矜持を保つことを心掛けなければならない。21中小企業支援研究 Vol.5

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