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エッセイ24中小企業支援研究鈴木 孝男中小企業経営と非言語コミュニケーション千葉商科大学 人間社会学部教授中小企業経営者がよく口にする愚痴の一つに、「社員の気持ちがバラバラで力が発揮できない」、「経営理念や事業計画を作っても、うまく働かない」といった組織マネジメントに関するものがある。「売り上げが思うように伸びない」、「仕事はあるが社員が思うように集まらない」といった外部的要因に関する悩みもあるが、どちらかというと組織(社員)に関する内部的要因のほうが多いのではないだろうか。企業も組織なので、よい製品(サービス)を供給するためには社員組織がうまく働かないと目的は実現できない。中小企業の場合、規模が小さい分社員の意識を同じ方向に向けて(ベクトル合わせをして)組織を動かさないと、自社が持っている力を100%はおろか半分も発揮できない可能性がある。1 CUC中小企業マネジメントスクールでの経験私は1997(平成9)年からこれまで、CUC中小企業マネジメントスクールを主催してきた。初めの頃は経営革新を行って成果を上げた企業の経営者からの話を中心にプログラムを作ってきたが、参加してくれている経営者の皆さんの問題関心とずれがあることに気がつき、途中から組織マネジメントに関する取り組みにテーマを移した。2013(平成15)年には「人と組織とイノベーション」というメインテーマを掲げて、社員の意識を高めてベクトル合わせに成功している企業の経営者に講義をしてもらった。その中で、S社のS社長の話が大変印象的で、受講者にも大きな刺激と感動を与えた。S社は交通誘導警備という分野で事業を行っており、建設現場などで歩行者や車両などの安全を確保するための警備事業を主な仕事にしている。この仕事には交通誘導警備業務検定という国家資格があり、それを所持する必要がある仕事もあるが、特に高度な知識や技術が必要なわけではなく、現場に立って歩行者等の安全を確保することが中心で参入が容易のようである。従って業界内で競争が激しく、仕事を取ろうとするとどうしても価格競争になってしまう傾向があるそうだ。しかし、これまで同社では、取引先から社員の指名で仕事が来ることが多く、これまで不況で業界全体では仕事がなかなかとれない時でも、無理な営業をしなくても仕事が確保できたということである。それだけ社員の意識が高く、責任ある仕事ぶりが顧客から評価されて、こうした結果が生じているのだそうである。しかし、同社でも最初から社員がこのように高い意識で仕事をしていたわけではなく、責任感の欠如、モラルの低さなど問題があったようである。それが、毎月第3日曜日に実施する講習会や社内報の発行などを通じて社員の意識が変わっていき、その結果社員が高い意識で仕事をすることで顧客からの信頼を得るようになって、営業しなくても仕事が来る会社になったということである。同社が行った取り組みの特徴としては、コミュニケーションを重視して、経営者と社員、社員相互の意思疎通を十分に図ることを時間をかけて行ったということがある。S社の事例は、社員相互のコミュニケーションをとることや、それにより自分が企業にとって必要な

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