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XECUTIVE 般について携わることで合併を進めた。専門知識を持った人材がかかわることで、予想された問題への準備や対処を適宜行い円滑な合併を進めることができたのである。【合併後の取組みと効果】 2社には規模の違いもあって、給与水準などに相違があった。そのため、給与水準を同程度に合わせて、従業員の不安の解消を図った。特に、異なる企業文化で働いてきた従業員間の意思疎通は、円滑な業務遂行には不可欠であり、経営陣は幹部との打合せを繰り返した。また、大企業幹部経験者が中立的な立場として経営陣と管理職、経営陣と一般従業員、さらに従業員間の調整を担い、加えて、社内旅行やレクリエーションの実施、社長と従業員との個別面談など、丁寧に社内の意思疎通を図ることで、従業員のモチベーションの維持・向上を図るとともに指揮命令系統の統一に気を配り、従業員が異なる幹部指示で迷うことがないように努めた。 取引先が重ならなかったといっても、製本作業それ自体には類似性があり、それぞれが業務を行う2つのラインがあった。しかし、それをそのまま残すのではなく工場を一つにし、ラインを1本に絞ることで、業務の効率化=生産性の向上を実現した。さらに、事業連携について意見交換を行ってきたものの廃業を選択した仲間から取引先を譲り受けた4こともあって、取引先を増やすとともに売上を増加させることもできた。 一方で、準備をしたといっても、2つの異なる企業のカラーが直ぐに解消することは難しく、現場=工場部門ではその傾向が強かったため、業務遂行に対する考えの相違が生じた。特に、新工場長に規模が小さかった企業の工場長を充てたことから、その工場長の方針に疑問を抱き、業務の実施方法に不安を抱いた古参の従業員が退職した。ただし、このような退職も合併にあたって生じ得る事象として、予想していたこともあり、退職を受け入れるとともに、他の従業員に動揺が生じないように、経営陣が協力して社内の意思疎通に一層気を配り、他の従業員への負の波及を抑えた。 このように、準備をしていても、コミュニケーションを中心に丁寧な対応に努めることが必要だった。【事業承継と今後】 後継者候補(関山亮氏)は、合併前に入社している。そのため、合併の準備段階において合併の相手先企業の工場で勤務し、合併後も工場で勤務した。この一定期間、現場の勤務を経験することで、社内に後継者としての周知が進んだ。今後は、現相談役(前会長5)が担っている資金繰りを含めた経理とその監督についての知識、経営全般の知識習得を進める。2019年には現社長は70代を迎えることから、2020年には社長を交代することをはじめ徐々に承継に向けた取組みを進める計画である。 現社長は属する製本業界だけでなく関連する出版・印刷業界の事業環境は厳しさを増していることを認識している。そのため、営業活動は今以上に厳しくなると考えており次代を担う経営者には企業の存続のための工夫を求めている。それは、受注待ちでは生き残ることができず積極的に取引先に提案を行って需要を喚起し受注を得る努力が不可欠であり、そのためには、若い後継者の手腕が必要ということである。 また、製本業は職人の世界であり、経営者といっても年下の言うことを素直に聞くという職場文化ではない。そのため、現社長として残りの期間で円滑な移譲を進めることに工夫を凝らすことが責務と考えている。 この他にも事業承継には多くの課題がある。一つは職人の技術継承である。業務の細部(トラブルへの柔軟な対処やトラブル発生への事前対策など)には職人の知識と経験が必要となる場面がどうしても生じる6。しかし、当社でも職人の高齢化が進み、40代と50代が多く30代が少なくなっており、将来の人手不足を懸念している。当面は、定年となった従業員を嘱託として再雇用し、若手従業員に対するOJTと繁忙期の人手不足を担ってもらう、加えて、65歳の定年以降も、職人には何らかの立場で当社の業務にかかわってもらうことで、人材不足対策や技術継承を進めたいと考えている7。技術の継承対策として、設備の更新・導入を促進し生産性を向上させて、待遇を改善し、同時に時間を確保し、職人の育成(若手従業員に対する教育の充実)に取組むことで技術継承を進める考えである。 職人が退職していくことによって、業界としても4 この際、一部従業員を引き受けている。5 当社では役員も定年を決めていて現相談役は会長を退いている。ただし、社長が退職年齢に達していないこともあって会長職は空席となっている。6 写真④などページ数が多い書籍の場合には、稼働中、機械の詰まりなどが生じる。素早い処理により、ラインが止まる時間を短縮させることも職人の技術に負うことが多い。7 技術継承には、新人とベテランが重複して働く期間が必要となる。当然経営としては人件費負担が重くのしかかる。当社は、技術を要する上製部門で低価格競争に巻き込まれていないことから一定の収益を得ることができている。ただし、その部門は発注側にとってコストがかかることもあり、業務は残るが市場は縮小することが予想される。一方の並製部門は製造が容易であることからコスト低減要求は今後強まると考えられる。その際に、規模の維持や雇用の維持をいかに図るかが、これからの経営者=後継者には求められている。32中小企業支援研究

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