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調査報告はじめに 中小企業経営者の高齢化が大きな問題となっている。今後5年間で30万人以上の経営者が新たに70歳を迎える(中小企業庁,2017)が、経営者が60歳以上である企業の5割は後継者が不在である(帝国データバンク,2016)。事業引継ぎ支援センターの整備や事業承継ガイドラインの改訂など、事業承継をサポートするための取り組みは行われているが、そもそも、当初から自分の代でやめるつもりでいる企業や、赤字が続き後継者が見つかりそうにない企業などに関しては、こうした支援策の効果は見込めない。高齢の経営者に対する支援は現状では事業承継に関するものが中心となっているが、廃業を円滑に進めるための支援についても検討すべきであろう。 そこで本稿が着目するのは、廃業する企業が保有する人材、設備、取引ネットワークなどの経営資源を他社に円滑に譲り渡すための支援である。廃業時の課題として挙げられるのは、「取引先との関係の清算」「事業資産の売却」「従業員の雇用先の確保」などが多い(中小企業庁,2014)。保有する経営資源を廃業時に他社に譲り渡すことができれば、これらの課題は自ずと解決されるだろう。さらに、廃業によって失われるはずであった経営資源が他社によって再活用されることは、地域経済にとっても活力維持や活性化の観点から意義があるものと考えられる。経営資源を譲り渡した企業の割合 このような経営資源の譲り渡しはどの程度行われているのだろうか。日本政策金融公庫総合研究所は、その実態を把握するため、2017年1月に「経営資源の譲り渡しに関するアンケート」(以下、アンケートという)を実施した1。 アンケートは、インターネット調査会社に登録しているモニターに対して、まず、事業を経営したことがあるか、事業をやめる際に経営資源を譲り渡したか、などを確認する事前調査を行った。そして、事業をやめた人に、経営資源の譲り渡しに関して詳しく尋ねる詳細調査を行った。有効回収数は事前調査が2,825件(そのうち詳細調査の対象となるのは1,220件)、詳細調査が831件である。なお、アンケートでは経営資源の譲り渡しについて、「対価が発生したかどうかを問わず、事業をやめたり縮小したりする際に自社が保有している経営資源の全部または一部を、他社や開業予定者、自治体、その他の団体などに、事業に活用してもらうために譲り渡すこと」と定義している。 事前調査の結果をもとに、事業をやめた企業(詳細調査の対象となる企業)のうち、経営資源を譲り渡した企業の割合をみると、29.9%であった(図表1)。業種別では「卸売業」が40.9%で最も高く、「飲食店、宿泊業」が40.8%、「製造業」が35.5%と続いている。業種によって譲り渡した企業の割合が異なるのは、保有する経営資源が異なるからだろ経営資源の譲り渡しを支援して廃業時の課題を解決する井上 考二日本政策金融公庫総合研究所主席研究員1 経営資源を譲り受ける側を調査する「経営資源の譲り受けに関するアンケート」も同時期に実施している。その結果については、井上考二「中小企業における経営資源の引き継ぎの実態」『日本政策金融公庫論集』第36号(2017年8月号)を参照されたい。38中小企業支援研究

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