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4中小企業支援研究 『金融検査マニュアル』も「リレーションシップバンキング報告」に先立つ2002年には『中小企業編』が整備されて、企業の技術力・販売力や経営者の資質といった定性的な情報と、それを踏まえた成長性を重視(事業性評価)が記載され、その重要性が示されていた。2 この点で、金融庁移行後、事業性評価の精神は脈々と育まれてきたといえよう。3[1.3] リレーションシップバンキングとは 2002年10月「金融再生プログラム」で、主要行についてはその不良債権を2年間で半分に圧縮する一方、地域金融機関にはその特性を考慮し、別のプログラムすなわち地域経済の再生により地域金融機関の不良債権問題に取り組むというもので、その際地域金融機関に特有のリレーションシップバンキングに注目すべきとされたものである。4 具体的には、先の金融審議会報告に基づきリレーションシップバンキングのアクション・プログラムが策定され(リレバン行政)、個別金融機関にはリレーションシップバンキングの「達成計画」の提出を求めた。これを集中改善期間、集中強化期間と2年間ずつ2回続けたが、個別金融機関レベルでは計画のチェックシートの埋め込みに忙殺され、27項目の埋め込みのためのアリバイ作り的な実績作りが行なわれたため、個別金融機関の独自性による対応(選択と集中)が見られなかった。 そこで、2007年4月からは「リレバンの恒久化」が図られ、同年8月には「監督指針」が改正されて、その中に地域密着型金融が明記された。監督で恒常的にチェックする項目になる一方、地域金融機関のビジネスモデルとして定着した(各機関は、地域密着型金融推進計画を策定することになった)。この監督指針の改正により、リレバンの恒久化と、その具体的手法としての企業の非財務情報を文書化する「知的資産経営報告書」の活用も明記された(図2。「(参考)具体的な手法例」の最初)。5 図2にあるこの「特許、ブランド、組織力、顧客・取引先とのネットワーク等の非財務の定性情報評価を制度化した、知的資産経営報告書の活用」というフレーズは、現行の『金融検査マニュアル』(預金等受入金融機関に係る検査マニュアル。2015年11月)にも記載されている(pp.42~43)。その「金融円滑化編」にある「Ⅲ.個別の問題点」の「2.中小・零細企業向け融資」の項目である「②取引先である中小・零細企業等に対する経営相談・経営指導および経営改善計画の策定支援等の取組み等」の中に「(参考2)中小企業に適した資金供給手法の徹底に係る具体的な手法例」の冒頭に掲載されている。知的資産経営報告は企業の非財務情報を「見える化」する手法である。 このようにリレーションシップバンキングは、企業価値を示すハード情報とソフト情報のうち後者を重視する。これは過去の経営の結果であるバランスシート・財務諸表の健全性という過去の姿ではなく、将来に向けたビジネスモデルの持続可能性・事業の将来を見ることがポイントで、「2016年金融行政方針」の「過去から未来へ」「形式から実質へ」というフレーズに表れており、ルール型行政からプリンシプル型行政へのシフトである。同行政方針は、企業を取り巻くステークホルダーの共通価値の創造(マイケル・ポーター教授のCreating Shared Value)を強調したが、その意味は金融機関が顧客に寄り添い、共に成長発展しようというもので、2003年以降のリレーションシップバンキングの精神であり、そのエッセンスこそ事業性評価なのである。企業は自らのビジョン等を「見える化」する一方、金融機関の行動や取組みが顧客により良く見えるようにする「見える化」が、事業評価をより有益なものにする。2 『金融検査マニュアル』は、金融監督庁(1998年6月創設)の時代に制定され(99年7月)、金融検査の現場で活用されてきた。金融庁に移行し(2000年7月)、02年6月に『中小企業編』も整備された。その中に、「継続的な企業訪問等を通じて企業の技術力・販売力や経営者の資質といった定性的な情報を含む経営実態の十分な把握と債権管理に努めているか」を評価する必要性があること、「企業の技術力、販売力、経営者の資質やこれらを踏まえた成長性」を検証ポイントに例示しており、「検査においては、当該企業の技術力等について、・・・あらゆる判断材料の把握に努め、それらを総合勘案して債務者区分の判断を行うことが必要」で、今後の事業計画書等を重視することソフト情報に基づく成長性の評価は金融機関の対応が良好でれば「金融機関が企業訪問や経営指導等を通じて収集した情報に基づく当該金融機関の評価を尊重する」とされた。すなわち、資産査定だけでなく、定性情報を重視する姿勢が明記されている。3 ただし、金融行政が事業性評価を重点化して、検査での個別資産査定は、金融機関の判断を極力尊重することとし、全体としての経営をモニタリングする方向を徹底する中で、『金融検査マニュアル』は廃止ないし凍結の方向にある。「2016事務年度金融行政方針」では、「過去から未来へ」「形式から実質へ」として財務重視の検査・監督から事業性評価重視のモニタリングになることを宣言している(「2017事務年度金融行政方針」も同様)。4 リレーションシップバンキングについては、アメリカのリレーションシップ・レンディングが基になっており、「長期的継続関係」に力点を置く解釈もあるが、むしろ重要なのは「定量化が困難な信用情報」に力点を置くというのが筆者の解釈である。「長期的継続関係」にのみ注目すると創業期の企業支援などができない。リレーションシップバンキングを強調したのは、「目利き」機能の重視であり、創業期企業に関しても視野に入れていることに注意すべきである。また、リレーションシップバンキングをリレバン行政(地域密着型金融)と捉える見方と、地域金融機関のビジネスモデルと捉える見方がある。さらに、地域金融機関の中には、バブル期を挟み、従来の融資モデルが正当化されたという理解に留まり、経営支援や事業再生・承継等へのサポートを含むコンサルティング機能の正しい理解が進まなかった状況もあった。メインバンク制が単に続くと理解されたのであろう。5 筆者は、事業性評価のエッセンスである非財務情報・定性情報・ソフト情報のビジュアル化・文書化が有効と考えており、知的資産経営報告書の活用を重視している。

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