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1.本書の概要 本書(『成功に導く中小製造企業のアジア戦略』(文眞堂、2017年9月))は、アジアの10ヶ国・地域への現地調査、進出中小製造企業100社以上のインタビュー調査の結果で明らかになった知見を基に、多様な観点から中小製造企業の成長を導くためのアジア戦略を検証した良書である(櫻井敬三・高橋文行・黄八洙・安田知絵著)。 専門家・研究者のみならず、海外進出を検討している多くの中小企業、それを指導する中小企業診断士にとって、実践的に役に立つ内容を有していると評せよう。 序章「中小製造企業の海外進出はメリットがあるか?」から始まり、第1章「データから見る中小製造企業海外展開の動向」、第2章「多民族、貧富の差、中所得国で留まる現実、各国事情把握」、第3章「海外進出する中小製造企業」、第4章「企業の海外進出戦略と立地優位性の追及-図們江地域を中心に」、第5章「進出後の現地人材育成の現状と課題-ミャンマーとベトナムにおける韓国系企業と日系企業の事例を中心に」、第6章「成功に導く束アジア進出戦略」と展開し、結章「海外進出に関する国際戦略を策定するポイント」で総括を行っている。 日本経済大学大学院「アジアビジネス研究会」のメンバー4名によるが、内3名は生まれ(母国)が中国・韓国であり、偏った目線でない東アジア地域の広域性を意識した視点で意見交換がされたものである。2014年度から2016年度の3年間にわたり、東アジア10ヶ国(中国、韓国、モンゴル、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、ラオス)約100社以上の訪問を通して経営者から基本的質問(経営方針、事業規模、取引先企業、創業後の経緯、自社特徴など)を聞き、その後工場を調査し、外資企業、地場企業との取引、外資企業側からの技術援助、生産の重要な要素、工場の管理などを細かくヒヤリングしている。 グローバル化進展の中で、中小製造企業も海外と接点を持つことは必要不可欠となっている。我が国施策としても2010年度中小企業白書で初めて中小企業の海外進出に向けての提言、実際の海外進出成功事例が紹介され、その後経済産業省中小企業庁の方針を受けて各地方自治体が東南アジアに点在する工業団地に貸工場を建設し、中小製造企業の誘致を始めている。 しかしながら、「だから海外進出ですね」とはならない、と本書は述べ、「もっともらしい一般化した理論を述べるよりも、より現実的事例を紹介することで参考にしてもらいたいからである。」ことを強調している。ともすれば研究者目線からの後付け的な分析・考証に偏りがちな書籍が多い中で、「進出後、こんなはずではなかったでは済まされないからである。」との思いから、中小製造企業にとって有用な内容の集約に意を用いている。2.本書の内容および結論づけ 業種・規模や経営スタイルが相違し、進出時の検討、進出後のマネジメントの状況、進出国の環境も異なっており、かつ十分な経営資源を有していない中小製造企業にとっては、成長する東アジア新興国において必ず活路を見い出せる国際戦略を示すことは難しい。紙幅の制約から各章の詳細な内容については割愛せざるを得ないが、海外進出に関する国際戦略の策定のポイントを以下のように提示することを試みている。58中小企業支援研究書 評櫻井敬三・高橋文行・黄八洙・安田知絵著『成功に導く中小製造企業のアジア戦略』文眞堂、2017年9月藤川 信夫千葉商科大学大学院客員教授・中小企業診断士

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