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①海外進出の動機は千差万別であるが、足りない経営資源を外部から取り込むことで、海外で下請け中小企業から独立経営の国際企業になれる。②進出目的を明確化し、十分な情報収集と多面的な検討を行うことで段階的に海外展開を進めていくことができる。③企業経営の基本活動である製造・販売・技術(人材)の視点から最適生産体制を構築するための東アジア進出を検討すべきである。④海外実務を任せられる人材の確保と育成が重要である。⑤経営環境変化の激しい東アジアでは、進出後もリスクマネジメントの視点から事業戦略の再検討が必要である。 さらにグローバル化時代において海外進出の立地戦略およびリスクマネジメントの視点から海外事業戦略を論じ、中小製造企業の海外進出に対するインプリケーションとして以下を掲げている。(イ)グローバルな立地戦略 2011年頃から企業規模を問わず中国への直接投資の割合は減少傾向に転じているが、背景には「チャイナリスク」があり、労働集約型の業種の中小製造企業は安価な労働力と廉価な製造コストを求めて中国以外の別の国に投資を分散しているが、実際には現地販売法人が設立できず、代理店を介して販売する必要があるケース、産業インフラが脆弱で電力が大幅に不足し新工場の設立や操業が難しいケース、官民共同開発を進めて工業団地の賃料が高く採算上からも進出が難しいケース、進出後は人的資源を奪われる可能性があるケースなどがあることを採り上げている。そこで「チャイナプラスワン」と呼ばれる新たな経営戦略が検討されている。 具体的な戦略として、「日本品質が生きた下請からの脱皮戦略(日本で下請から中国で自主独立ヘ)」、「進出国の市場だけを意識した戦略(テラモーターズ社の場合)」、「日本の工場をたたみ海外工場を展開(日本へのバイバック中心だが儲かる経営)」、「自動車・家電の集積地域の後工程に特化戦略(マレーシアの日系塗装工場)」、「100%現地調達(部品も工作機械も)・生産方式は手動の実利戦略」を示している。 この他にも、国際企業を目指す雑貨・縫製加工企業(中国、ミャンマー)、技術開発型のグローバル企業を目指す精密プレス製造企業(タイ)、労働力確保と成長市場を求め海外進出釣具製造企業(ベトナム、中国)、人材確保を目的として進出するオフショア開発委託企業(中国、べトナム、ミャンマー)、グローバルSCM構築の繊維産業における日系アパレル企業(中国)など豊富なケーススタディを掲示している。(ロ)リスクマネジメントの視点 中小企業は国際化にあたって様々なリスクへの対応が必要である。進出後もリスクマネジメントの視点から海外事業戦略の検討が必要となる。具体的には、進出前に策定した事業戦略の有効性を継続的確認や海外現地企業の適切な経営管理といった面で検討を行い、その検討結果によっては早期に進出国からの事業撤退を決断する場合も考えられる。中小企業庁(中小企業基盤整備機構)としても、中小企業に海外リスクマネジメントに関する理解を深め、必要な対策に自立的に取り組めるよう2016年には「中小企業のための基礎からわかる海外リスクマネジメントガイドブック」、「中小企業のための海外リスクマネジメントマニュアル」、「各国別リスク事象一覧」などを取りまとめている。(ハ)国際戦略の策定のポイント 以上をまとめて、中小製造企業海外進出の戦略的海外展開には不可欠のポイントとして以下の提示を行っている。経営者のグローバル化対応のマインドセットを持つこと、進出目的を明確化し段階を踏んで海外展開を進めていくこと、一つ国ではなく中国の内陸・辺境地域およびメコン経済圏の検討をすべきことを指摘する。 さらに東アジア進出後における海外事業のリスクマネジメントの視点について、具体的には進出前に策定した事業戦略の有効性を確認し、進出後も事業戦略が現状と適合しているかの再検討が重要となること、資金力の確保が大切でありアジア新興国に進出する場合には設備資金以外に人件費や仕入れ費用など最低数年分の運転資金を確保すべきであること、不測の事態も想定する必要があることなどを掲げている。以上59中小企業支援研究 Vol.5

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