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5中小企業支援研究 Vol.52.信用補完制度の見直し[2.1]信用補完制度の見直し 『中小企業白書2017年版』は、コラム2-2-7(pp.336~337)に信用補完制度の見直しについて触れている。「信用補完制度は、中小企業の資金繰りを支える重要な制度であり、中小企業がライフステージの様々な局面で必要とする多様な資金需要や大規模な経済危機、災害時の資金需要に柔軟に対応していく必要があるが、金融機関が過度に信用保証に依存すると、事業性評価融資やその後の期中管理・経営支援への動機が失われる恐れがある。こうした問題意識から中小企業政策審議会において、信用補完制度の見直しが進められ、2016年12月20日に見直しのパッケージが取り纏められ、これを踏まえ2017 年2月28日に「中小企業の経営の改善発達を促進するための中小企業信用保険法等の一部を改正する法律案」が閣議決定された。…主な目的は、信用保証を通じて中小企業に必要十分な資金を供給しつつも、金融機関における事業性評価融資や、その後の期中管理・経営支援を確保することで、中小企業の経営改善に一層つながる仕組みとすることである。」(下線は筆者) このコラムにあるように、2015~16年の信用補完制度の見直しは、信用保証によって事業性評価を確保しようとするものであった。関連法案も2017年6月7日に成立し、2018年4月から実施される。 信用補完制度は、民間の融資を誘導・促進するが、他方民間金融機関をLazy Bank化し、情報生産機能を劣化させてしまう弊害をもつ。さらに、安易な利用は、信用補完制度の保険部門における赤字を後年度にもたらし、その補填に国民負担を増大させる。1998年導入の特別保証では1兆円超の、リーマン・ショック後の緊急保証・景気対応緊急保証・セーフティネット保証では5兆円規模の国費投入を後年度に要した。 金融機関にとって保証は、担保と同様、債権保全を確実にする。債権保全に余裕ができれば、他の融資案件に取り組む余地が生まれ、企業金融は活性化する。また、信用リスクが大きい企業への融資も可能になるなど利点も多い。ところが、債権保全がスムーズで、返済がきちっとなされる限り、企業の実態を診るニーズは低くなる。返済は約定通り円滑でも、実際には経営に課題を抱えていることも多い。その結果、返済が滞るようなケースもある。このような事態を防ぐには、与信管理という期中モニタリングを徹底することである。保証は、債権保全が確実なので、事業性評価・期中モニタリングを怠らせる劇薬でもあり、金融機関がLazy Bankに陥る懸念もある。 信用補完制度は、情報非対称性の制約の下にあり、モラル・ハザードや逆選択の問題が避けられない。前回の2005年の見直しで通常の保証は100%保証から部分保証(責任共有制度)に変革し、一律だった保険料はCRDスコアに応じて弾力化する措置が導入された。とはいえ、金融機関にすればリスク負担は20%で済み、保証料も顧客に転嫁できるので、便利な制度である。保証協会の審査もあるが、それほど高いハードルではない。リーマン・ショックや東日本大震災対応の保証は、100%保証のメニューとしたため、国民負担が大きくなった。かつ、2009年以降の金融円滑化法による貸出条件変更が行なわれ、相応の効果もあったが(数十万社の利用)、条件変更の繰り返しなど弊害も生じ、6 抜本的な事業再生が必要とされる場合も多いという6 金融機関から条件変更が認められた企業のうち、半数となる50.4%の企業が、複数回の条件変更を受けた経験があると答えている(『中小企業白書2016年版』p.345)。条件変更を行なうと新規融資が行なわれないので、債務返済に追われ、事業再生に結実せず、塩漬け状態になる。(図2)2007年8月改正「監督指針」の一部(2007年5月31日パブコメ用)(http://www.fsa.go.jp/news/18/ginkou/20070531-1/03.pdf p.15)

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