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7中小企業支援研究 Vol.5取引金融機関を一堂に会して経営改善計画への合意に向けた支援を行なう。この他にも、一度事業に失敗した経営者の再チャレンジを支える取組や創業希望者に対して事業計画等の策定を支援し十分な計画 が出来上がった段階で資金調達について金融機関につないでいくといった取組等、様々な形での経営支援を進めつつある。今後、金融機関の事業性評価融資や期中管理・経営支援を確保しつつも、こうした信用保証協会の取組を強化していくことにより、中小企業の経営改善を進めていくことが重要となる。 報告書が、これらの信用補完については一定の規律を持って行なわなければ、中小企業の経営改善意欲を後退させ、金融機関においては事業を評価した融資や経営支援の姿勢を後退させる恐れもある、ことを強調した点を確認しておきたい。事業性評価を信用補完制度は推進する役割がある。3.レイジー・バンク仮説(lazy bank hypothesis)[3.1]レイジー・バンクとは  金融機関は融資を行なう際、情報生産を行ない、自らの責任own riskにおいて実行するのが通常でこれをプロパー融資という。したがって、プロパー融資のみであれば、情報生産理論で説明可能な世界である。ところが、信用保証・担保を明示的導入すると、情報生産理論の修正が必要になる。一般に、担保保証の役割について、ポジティブに受け止める議論が金融理論的には多い。貸手である金融機関は債権保全のコストが低くなるので、低い金利など借手に有利な条件での信用供与が可能になるほか、信用条件の厳しい借手への融資も可能にするので、社会的に見て効率性が高まるという説である。 しかし、担保を重視する融資手法の弊害を指摘する論もある。その典型が、レイジー・バンク仮説(lazy bank hypothesis)である。Manove, Padilla and Pagono[2001]は、担保の役割に着目し、その関連で銀行の審査機能(スクリーニング機能)を分析した。それは、担保によって貸出債権が部分的でも保全されると、貸手の審査(スクリーニング)・モニタリングのインセンティブは低下し、情報生産が劣化する可能性を理論的に指摘したものである(lazy bank 仮説)。 lazy bank仮説の下では、銀行は債権を100%回収できるように担保を要求する。その際、担保があるので銀行は事前審査を行なわない。その結果、貸出先企業の倒産確率は高くなる傾向があり、過度に担保を要求する銀行は不良債権比率が高いが、担保・保証によって保全される比率も高いので、経営的な問題は生じない。 極端に担保に依存する銀行は事前に貸出先を審査するインセンティブが乏しい。保証は債権保全を確実にするので、金融機関は与信管理・モニタリングを行なうインセンティブがなくなる。100%保証であれば、当然だが、部分保証であってもインセンティブは小さくなる。 このようにlazy bank 仮説は、金融機関が担保・保証を過度に依存して金融仲介を行なう場合に、スクリーニングや期中モニタリングなどが疎かになり、金融機関のモラル・ハザードを生み、社会的に見て不都合な場合もあることを指摘したのである。リレーションシップバンキングは、過度に担保・保証に依存しない金融仲介を求めたが、別言すればlazy bankに陥らないことを目指したものといえよう。その意味で事業性評価も同様である。8[3.2]最近の状況との関連 金融機関が信用調査を行なわず、情報生産を怠ったり、公的信用保証に依存する行動を取り、意図的にプロパー融資を保証付き貸出に振り替えるような行動を取ると、信用保証がプロパー貸出を減らすという代替的な関係になる可能性がある。これも1つのlazy bank 仮説と考えることもできる。 ただ、公的信用保証を利用することで、金融機関の信用コストや情報生産コストは節約できるので、節約されたリスク資産や資源を用いて金融機関が情報生産を追加的に行ない、その結果としてプロパー融資を増加させる可能性もある。公的な信用保証がプロパー融資を増やすという補完関係が成立するが、これをdiligent bank 仮説9 と呼ぶこともある(近藤[2015]p.57)。 公的信用保証とプロパー融資が、代替関係になるのか、それとも補完関係にあるのかは、金融機関の情報生産活動について、インセンティブについて異8 村本[2017]。9 diligent bankとは、勤勉銀行ないし精励銀行という邦訳であるが、むしろ「骨を折る銀行」ないし「汗をかく銀行」、「寄り添う銀行」という意味である。

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