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められているが、原則的には外国人労働者の職種間移動が認められない制度となっている。現在の新たな外国人技能実習生の入国が難しい状況の中で、外国人技能実習生のフレキシブルな職種間移動を認めることは、企業現場における外国人技能実習生の有効活用を進める鍵となりうるだろう。今後、外国人技能実習生を含めた外国人労働者を受け入れていく上で、その受入れ先であり、最も長く時間を過ごすことになる雇用の場である企業の労働環境整備が外国人労働者の生活の質を向上させる上で最も重要であることは疑いない7。そのためには、外国人労働者が社内で日本人と円滑にコミュニケーションを取れるよう、通訳を活用した面談や指導等の実施や日本語学習の支援といった取り組みが重要となる。また、外国人に対し、困っていることがないかどうか声掛けを行うことや、日本人が相手国の簡単な挨拶等の外国語を覚える、社内イベントに積極的に参加するといった日本人と外国人の双方向のコミュニケーションを促進させるインフォーマルな取り組みは、基礎的なことであるが、外国人、日本人双方のモラール(士気)の向上を見込めるので、企業内で積極的に進めていくべきである。能力開発面では、現状、外国人労働者の多くが非正規社員であり、教育訓練・能力開発が行われていない状況であるので、特に非正規社員の「定住者」の外国人労働者のうち意欲の高い者に対しては、正規社員として長く企業の戦力となることができるよう教育訓練・能力開発を計画的・積極的に実施していくべきだろう。5 おわりに外国人労働者が今後、地域の中小企業で円滑に働いていくためには、外国人労働者が地域コミュニティになじみ、溶け込んでいくことも重要な要素である。現在、地域の中小企業が外国人労働者を地域コミュニティになじませるための支援や取り組みとしては、お祭りなどの地域の行事に積極的に参加させる事例が多く見られるが、これからは、外国人を受け入れる地域コミュニティの受け皿を厚くする一方で、地域の中小企業が、地域コミュニティに外国人労働者が参画できるよう支援していくことが必要となろう。外国人が地域コミュニティに参画することは、日本語でコミュニケーションができるようになり、職場になじめてからのことであるので、時間がかかり簡単なことではない。しかしながら、外国人住民の定住化が進む中で、地域の中小企業は自社の外国人労働者を一時滞在者ではなく、中長期的に滞在する生活者として捉え、地方自治体等と連携して、地域コミュニティに溶け込めるよう支援を進めるべきだろう。新型コロナウイルスの流行により、海外からの新規の外国人材の受入れが難しくなっている状況であるからこそ、地域の中小企業は自社の外国人労働者を単なる労働力としてのみではなく、地域社会の重要な担い手として処遇し、活用していく必要があると思われる。【参考文献】厚生労働省, 『「外国人雇用状況」の届出状況』, 2020年1月中原 寛子「中小製造業における外国人技能実習制度活用の現状と課題 ―精密加工中小企業の事例をもとに―」, 商工金融, 2020年11月守屋 貴司「日本の中小企業における外国人材による「働き方改革」の現状と改善策」, 商工金融, P18-33, 2019年4月張 一成 ・ 張 紀尋 ・ 野澤 建次「外国人労働者をめぐる問題とその解決策について」, 城西国際大学大学院紀要 (22), P85-101, 2019年3月守屋 貴司「外国人労働者の就労問題と改善策」, 日本労働研究雑誌(No.696), P30-39, 2018年7月 「第9回日本公庫シンポジウム報告書, 中小企業における外国人雇用の現状と課題」, 日本政策金融公庫, 2018年3月竹内 英二「中小企業における外国人労働者の役割」日本政策金融公庫論集第35号, P30-39, 2017年5月7 張 一成 ・ 張 紀尋 ・ 野澤 建次(2019)「外国人労働者をめぐる問題とその解決策について」,城西国際大学大学院紀要 (22), P9733中小企業支援研究 Vol.8

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