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【評論】価値共創と資源統合S-Dロジックにおける資源概念と展開パターンの追求Value Co-Creation and Resource Integration: An Investigation resource concepts and resource deployment in Service-Dominant Logic高千穂大学商学部・大学院経営学研究科 教授 庄司 真人2中小企業支援研究Ⅰ.はじめに ビジネス分野において価値共創が注目を集めている。市場での競争が激化する中で、価値の源泉を顧客に求める企業が増えてきていることによって価値共創の構造を理解しようとする動きが学術的にも実務的にも見られるようになっている。さらに企業と顧客との価値共創への関心は、たとえば、ネスレによるキットカットやコマツによるKomtraxのようにB to C、B to Bといった形態に関わらず多くの分野において注目されることになる。 サービス・ドミナント・ロジック(Service-Dominant Logic、以下S-Dロジック)は、価値共創に注目した研究となっている。つまりS-Dロジックは企業が価値を提案するだけであり、企業と顧客によって価値が共創されるという価値共創概念を提示することによって、顧客による価値創造を強調し(Vargo and Lusch 2004; 井上・村松 2010; 庄司 2011)、アクターによる資源統合によって価値が生み出されると主張している。このため、資源統合が価値共創にとって重要な視点となる。 資源概念は従来、経営学の領域、特に経営戦略においてよく見られており、価値を提案する側である企業の視点から構築されていた。その主なものとして資源の大小による視点であり、企業規模によるものがある。資源をより多く保有することで優位性が生まれるということであり、資源を保有することで規模を拡大することになる。このため、資源を獲得し、企業の中に取り込むという考え方がこれまでのビジネスで中心となっていた。 さらに、情報技術が発展することで資源を保有すること以上に、資源を利用する状況が重視されるようになってきている。Amazonや楽天といったプラットフォームやUberやAirbnbなどのシェアリングサービスなど、資源を共有したり利用したりすることが可能になるにつれて、すべての資源を一企業で持つ必要が無く、利用可能性を高めることが求められるようになっているのである。つまり、資源を組み合わせて価値を創造する、資源統合の視点が重視されることになる。 しかしながら、価値共創と資源統合の関係については十分に検討されているわけではない。またS-Dロジックがマクロでの解明を志向することによって、メゾレベルやミクロレベルでの個別の資源統合の枠組みについてはそれほど関心が払われてこなかった。そこで、本稿では、S-Dロジックにおける価値共創を検討し、そのうえで資源統合の枠組みによる資源展開のパターンについて考察する。特にS-Dロジックにおいて議論されている利用する資源(オペラント資源)という視点から議論を進めるものである。Ⅱ S-Dロジック1.S-Dロジックの展開 S-Dロジックの議論はJournal of Marketingにおいて発表された「マーケティングへの新しいドミナント・ロジックの進化」が出発点となっている(Vargo and Lusch 2004)。この論文はサービス概念の重要性を提示することを目的としているもので、市場志向やサービス、ネットワーク、資源統合などのマーケティングにおける思想ラインを分析し、その中心に存在するのがサービス概念であると主張したものである。そのうえで、サービスを中心としたマーケティングにおける基本的前提(2004年の段階では8個、2016年に11個まで広がる)を提示し、その中心となる公理を示している(図表1参照) ここでのサービスについては無形財としてのサービスではなく他者あるいは自身のベネフィットのためにコンピタンス(ナレッジとスキル)を適用すること(Lusch and Vargo 2014; Vargo and Lusch 2004)と定義し、

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