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寿企業大国”ともいわれるなかで、その多くはFBが占めているという実態もあるといわれ(図表2)、FBという概念はポジティブな観点から今後ますます注目されていく可能性が高いと考えられる。2.長寿企業がくぐり抜けてきた4つのリスクとファミリービジネス前述してきたような状況を踏まえ、信金中央金庫 地域・中小企業研究所では、FB特有の「継続力」の源泉を探るべく、2019年度を通じて全国各地の信用金庫と接点を持つ22社のFBに対してヒアリング調査を実施してきた。そこで顕著にみられた共通点としては、①「幼いころから会社は遊び場のようなものだった」、②「社長(親)が体調を崩したことが“家業”へ入るきっかけとなった」、③「“家業”へ入る前の社外経験が糧となった」、と回答する経営者(後継者)が多かったという点があげられる。しかしそれ以上に、ヒアリングしたFB各社は、いわゆる長寿企業がくぐり抜けてきたとされる4つのリスク(①人事リスク、②事業リスク、③天災地変リスク、④倫理リスク)1を、それぞれの「継続力」を発揮しながら巧みにかいくぐってきたという実態を垣間見ることができた。例えば、①人事リスクについていえば、家族(ファミリー)としての生活空間と企業経営(ビジネス)の現場に一体感を有することの多いFBにおいては、その後継者候補たる人材(子どもなど)が常に身近に存在し、無意識のうちに時間をかけて理念を共有することで、事業承継による世代交代を何度となくクリアして今日を迎えているとみられるケースが多かった。今日的な中小企業の事業承継問題に対しても、多大な示唆を与える存在であるといえよう。また、②事業リスクという点では、数十年単位で進展する事業環境変化(いわば時代の変化)に合わせるかのように、「多くのFBにビルトインされている30年に一度のビジネスモデル自動転換システム」(㈱星野リゾートの星野佳路氏)が効果的に機能するかのごとく、FBの世代交代そのものが事業リスクの低減にもつながっているという面があった。むしろ、世代交代を変革の好機と捉え、いわば「第二創業」へ展開を広げているケースも多かった。さらに、③天災地変リスクという点では、100年単位での事業の継続を実現しているようなFBの多くは、今日の新型コロナウイルス感染拡大にも匹敵するかのような、事業継続を困難化しかねないさまざまな不可抗力(巨大地震や風水害、大火災などの突発的なものから、明治維新や世界大戦のような政治経済の大変革まで)に見舞われながらも、その未曽有の困難を持ち前の復元力(レジリエンス)で克服してきたという部分で共通している。そうした危機対応の経験が、企業や家族の中で「社訓」あるいは「家訓」として受け継がれているとすれば、それはまさしくFBならではの「継続力」の源泉の一つになり得るものと考えられた。最後の④倫理リスクについていえば、今日的にコーポレートガバナンス(企業統治)の重要性が高まるなか、多くのFBでは“ファミリーガバナンス”と(図表2)長寿企業の同族承継割合(%)1 4つのリスクの詳細については、日本経済大学大学院特任教授である後藤俊夫氏の著書「長寿企業のリスクマネジメント」(2017年、第一法規㈱)を参照のこと(備考)1.日本経済新聞出版社が帝国データバンクの各種資料をもとに社長の就任経緯が判明している長寿企業のみで集計2.日本経済新聞出版社「長寿企業 逆境に勝つ強さの秘密」(2020)をもとに信金中央金庫 地域・中小企業研究所作成41中小企業支援研究 Vol.8

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