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3中小企業支援研究 Vol.8取引の対象となるサービスのことを複数形のサービスもしくはサービシィーズと表現している。グッズと対価との交換ではなく、サービスとサービスの交換が本質的な交換であるとすることによって、マーケティングの特性と視点を再考しているということが出来る。 このサービス概念を用いることによって取引される場面だけではなく、多くの場面でサービスが交換されているということを示すことが出来る。たとえば、Amazonが取り組んできている様々な施策は、買物における障害を取り除く行動であるといえる。Amazon Goや定期オトク便は、購入において買い手による注文や支払のための手順の一部を省略するというサービスを提供することが行われていることになる。またカスタマーレビューは、他のアクターによる評価を通じて、価値の実現の可能性を確認することを容易にしているということができる。これらの行為はサービスを適用していることになる。そのため、サービスに注目することで、取引という場面の解明だけではなく、取引の範囲を超えた様々なプロセスを明確にすることが出来るようになるのである。 S-Dロジックは、2004年の論文が特に多く引用されているが、2004年の論文は出発点に過ぎず、多くのマーケティング研究者が関与することによって発展していった。オセアニアの研究者を中心とし、S-Dロジックの影響について検討したオタゴフォーラムや、ヨーロッパの研究者とサービス研究からのアプローチからS-Dロジックを検討するナポリフォーラム、それからS-Dロジックにおける拡張を目指した市場とマーケティングフォーラム(Forum on Markets and Marketing)での議論によって、S-Dロジックも発展していった(Wilden et al. 2017; Zinser and Brunswick 2016; 庄司 2018)。そのような発展によって、サービス交換の階層性を示すマクロ、メゾ、ミクロの視点やサービス交換の構造であるサービス・エコシステムなど様々な概念が精緻化されるようになる。2.S-Dロジックと価値共創 S-Dロジックがマーケティングおよび関連分野にどのように貢献するのかについて多くの議論が重ねられる中で、S-Dロジックにおいて追求される研究課題が提示されてきた。その代表的な課題として価値共創と共同生産の相違である。S-Dロジックでは、価値共創と共同生産を明確に区別している。ここで共同生産とは、消費者による提案を製品化するというプロセスのことと関連し、顧客と製造業者との共同で行われる開発や共同で行われるデザインが該当する(Lusch and Vargo 2014)。しかし、S-Dロジックではこれらと価値共創を区別し、Vargoらの主張に基づくと価値共創は共同生産の上位に位置づけられる(田口 2010)。 もう一つは価値共創の主体である。価値の受益者となる顧客がサービス交換を行うということがS-Dロジックでは強調されるため、資源統合者としての視点が重要となる(Lusch and Webster 2011)。当初、S-Dロジックでは、消費者ではなく顧客という視点が強調されていた。これは、消費者という用語が価値を破壊するという語源を有するものであり、消費者の持つ価値創造の視点が失われるとしたためである(Vargo and Lusch 2006; Vargo and Lusch 2008b)。そのため、S-Dロジックではアクターという能動性を強調した概念が用いられる。 さらに、資源統合者として顧客を位置づけるため資源概念およびアクター概念を導入されている(Vargo and Lusch 2011)。S-Dロジックにおいて用いられる資源は、資源をオペラント、オペランドと分類し(Constantin and Lusch 1994)、価値共創におけるオペラント資源の有用性について議論を行っている。 S-Dロジック研究では、しかしながらこの価値創造および資源統合については十分に議論されている状況にはない。特に、これはS-Dロジックの精緻化のためにマクロ志向での議論が展開されているためである(Vargo and Lusch 2017)。そのため、S-Dロジックの用図表 1 S-Dロジックの公理公理記述公理1サービスが交換の基本的基盤である公理2価値は常に受益者を含む複数のアクターによって共創される公理3すべての経済的および社会的アクターが資源統合者である公理4価値は常に受益者によって独自かつ現象学的に判断される公理5価値共創は、アクターが生み出す制度と制度的配列によって調整される出所:Vargo and Lusch(2016), p.18を元に筆者修正

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