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事例報告2.林原社破綻の原因 林原社は潰れる必要がない企業であったが破綻した。その原因は、以下の3つが複合的に絡んで破綻したものと考えられる。(1)会社法違反の事実と違反の常態化 破綻時、林原社は年商が280億円前後のなか、金融機関借入金はグループ全体で約1,400億円。当然ながら負債総額が200億円超であり、会社法では「大会社」の扱いとなる為、会計監査人(監査法人)の設置が必要であった(会社法第328条)。 すなわち、会社法を違反し続けたのである。住友信託銀行(準メイン・現在の三井住友信託銀行)の歴代頭取から、林原健社長は監査法人未導入について指摘されていたが、「いつか導入すれば」と軽い気持ちでしか捉えておらず、結局破綻時まで監査法人を導入した形跡はない。以前より監査法人が入っていれば粉飾決算を防げたか、あるいは早期の発覚により、資産の売却による金融機関借入金圧縮等によって破綻に陥ることはなかったものと思料される。なおメインの中国銀行においては、破綻に至るまで与信審査で監査法人を設置していないことがネックになったこともない状況であり、レンダー・ライアビリティ(貸手責任)として大いに問題がある。 2つ目の違反は、取締役会・定時株主総会を開催していなかったことである。定時株主総会開催は,林原家のみの株式保有(大半が林原健社長であり、ひとり株主とみることも可)なので、本来よくないことではあるが黙認できなくもない。しかしながら、取締役会は代表取締役を含む取締役が最低でも3か月に1回以上職務執行の状況報告をする必要があるなかで、林原健社長は1961年(昭36)に社長就任してから破綻した2011年(平23)まで、50年に渡り一度も取締役会を開催したことがないと語っており(書類上では「開催」されたことになっていた)、それが事実であれば、意思決定機能の位置づけが問題で、チェック&コントロールが組織として欠落したコーポレート・ガバナンスの機能不全による破綻といえる。(2)粉飾決算 林原社は前記の「インターフェロン」や「マルトース」といった医薬品向けや、食品製造業界ではなくてはならない存在となった「トレハロース」等、世界の大手企業も手掛けないような難しい製品を商品化してきた実績がある。しかしながら、例えば「マルトース」は開発を始めてから商品化(採算化)するまでに30余年を要しているなど、単年度決算には馴染まない経営体制となっていた。すなわち、10年間の内7~8年は赤字でも、大ヒット商品出現による多額の利益で10年間の収支ではプラスになるような決算であった為、林原靖専務主導での粉飾決算に繋がったようである。林原健社長は研究開発に嗅覚がはたらくようであったが、本来であれば短期・中期・長期のテーマを決めた上で、開発予算等をどう配分していくかといったロードマップを作成する必要があった。ところが、破綻した最後まで林原健社長の頭の中でしか行程表はなかった。また研究開発費を林原健社長が求めた際、会計を仕切っていた社長の実弟である林原靖専務が、収支を把握の上、不足分を単なる運転資金として金融機関からの調達(借入)によって賄っていたのである。金融機関からの借入に対して、一般企業であれば資金使途を前提に、B/SやP/Lのみならず勘定科目明細や試算表、設備計画概要や収支予測データ等、場合によっては中期経営計画書まで提出を求められるが、林原社は簡便な財務資料(B/SとP/Lのみ)で通用してしまったようである。何故なら、会社四季報を見れば中国銀行の筆頭株主で、株価×株数で時価額が判明し、また所有不動産も県庁所在地である岡山市の岡山駅前の一等地に15千坪強を保有し、実勢時価は容易に把握できる為、メインバンクを筆頭に各金融機関とも「あそこは(資産があるから)大丈夫」と、資金使途の精査もせず安易に貸し込んだことが、林原社の破綻の一因になったのではないか。これが上場企業であれば、有価証券報告書提出や適時開示のシステムが整備されているので、こういった事態に陥ることはなかったので残念である。48中小企業支援研究

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