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(3)コミュニケーション不足 林原健社長は1997年(平9)に藍綬褒章を受章し、2003年(平15)には日経新聞の「私の履歴書」に連載され、経営者として「成功者の証」といった評価がなされ、いわば神格化された様子がうかがえる。林原健社長に対して、周りは慮って何も言ってこない、いわば裸の王様になってしまっていたようだ。事実、弟の林原靖専務が主導した粉飾決算について林原健社長の耳に入ったのは、メインバンクの指摘であったということは、兄弟間(社長・専務)でも意思の疎通が乏しかったといえよう。その他にも、メイン・準メインバンクからのデットガバナンスは破綻直前まで特段なかった様子であり、以前から適宜適切な双方のコミュニケーションが図れていたのであれば、破綻という最悪な事態は回避できたと思料される。3.林原社破綻からの教訓 林原社の弁済率を鑑みた場合、本来破綻するはずがなかった企業であり、二度とこういった企業が発生しない為にも、以下の3点が重要である。 1点目は正しい経営である。それはルールを守ることであり、企業であれば最低限の会社法に則ったマネジメントをする必要がある。 2点目は、粉飾決算などしない透明性を確保した経営である。コンプライアンス遵守も含めて、当たり前のことを当たり前に行うことである。 3点目は、経営トップは意識して社内・社外を問わず適切なコミュニケーションを持つように努め、特に苦言を呈してくれる存在の確保は必須であることを肝に銘じるべきである。Ⅳ.おわりに(提言) 上場・非上場2社の同族系企業の破綻事例を通じて、創業家、特に創業者の先見性やリーダーシップには目を見張るものがあるが、2代目以降になるとトップとしてのマネジメントは難しいことが判明した。 同族系企業のコーポレート・ガバナンスの確立は難しく、日本では更に金融商品取引法改正、会社法改正にて規制を強化する方針である。制度として拡大化している独立社外取締役において、中小企業診断士をはじめ、従来から独立社外役員に入ることが多い弁護士・公認会計士・税理士等の士業が牽制役として名を連ねることを、各種の法改正により制度化することができないかを筆者は提言したい。 当然ながら、士業が独立社外取締役等に入っても最初から万能であるとは限らないが、明らかにガバナンスの改善へ向かうものと筆者は考える。 最後に、本研究を通じて「当たり前のことを当たり前に行う」といった正しい企業運営が、コーポレート・ガバナンスの起点であり、極めて簡単なことであると帰結したが、実際にはかなり難しいことであることもわかった。今後も筆者は日本企業のコーポレート・ガバナンス向上にむけて、多角度からアプローチを図り、実際の企業運営の一助となるべく、微力を尽くしていく所存である。【参考文献】菊池敏夫(2007)『現代企業論(責任と統治)』中央経済社太田三郎(2009)『倒産・再生のリスクマネジメント』同文館出版中村直人(2017)『コーポレートガバナンスガイドブック』商事法務中村直人(2017)『コンプライアンス・内部統制ハンドブック』商事法務中村元彦(2020)『中小上場会社の内部統制』同文館出版安岡孝司(2018)『企業不正の研究』日経BP社藤井義彦(2019)『巨大企業危機』さくら舎有森隆(2017)『巨大倒産』さくら舎林原健(2014)『林原家(同族経営への警鐘)』日経BP社林原靖(2013)『破綻(バイオ企業・林原の真実)』WAC49中小企業支援研究 Vol.8

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