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4中小企業支援研究語もビジネスを想定しているものからより包括的な用語へと転換することになる。このマクロ志向性はS-Dロジックの用語を変更することになり、たとえば、S-Dロジックの基本的前提において、競争優位という用語が戦略的ベネフィットと変更されるようにビジネスに限定されない用語へと変更されている(Vargo and Lusch 2004; Vargo and Lusch 2016; Vargo and Lusch 2008b)。 このようにマクロ志向が強調されているS-Dロジックであるが、必ずしもミクロの観点を無視しているということではなく、マインドセットとしての有効性(Lusch and Vargo 2006)を確立するためにより広範囲をカバーする用語が必要であるため、マクロ志向の研究が優先されてきたと考えることが出来る(庄司 2018)。そのため、近年では、マクロの視点だけではなく、ミクロやメゾレベルでの考察が行われている。 S-Dロジック以外の価値共創に関する議論でも、顧客をどのように関与させるのかについて検討されていた。先駆的な研究としてあげられるのはTofflerによるプロシューマー論である(Toffler 1980)。プロシューマーとは、Tofflerによる造語であり、生産者(producer)と消費者(consumer)を組み合わせたもので、消費者の生産への貢献を示す概念である。Tofflerのプロシューマーは、消費者がもつ価値創造の側面を強調したものとして評価される。 また、Normannらは、顧客参画のモデルとして具体的な製品開発における消費者・顧客の関与を示すために企業の機能と様態から分析している(Normann and Ramirez 1994)。Normann and Ramirezのモデルでは、企業の価値創造プロセスとして一連の企業活動という機能面と行動面や感情面といった様態面から顧客がどこで関与することを示すものである。 Prahalad and Ramaswamyでは、対話(dialogue)、アクセス(access)、リスク評価(risk assessment)、透明性(transparency)を構成要素とするDARTモデルを提示し、これら4つの観点からの顧客との関わり合いを重要と見なしている(Prahalad and Ramaswamy 2004)。Prahalad and Ramaswamyの主張は、消費者を価値の共創者として強調しているものであり、消費者と企業の一体的に行われる活動を明らかにしているものとなる。 北欧学派と呼ばれるサービスを強調したマーケティングを研究するグループにおける代表的論者であるGrönroos は顧客こそが価値を創出する主体であると主張する (Grönroos 2008)。この議論は、顧客が有形財や無形財を入手し、これを利用することによって価値を生み出すということから、価値の創出は共創というよりは顧客だけが生み出している指摘する。S-Dロジックを中心としたサービス研究分野では、これらの観点についてその相違点を詳細に検討されているが、取引される対象物を前提とした考え方による価値共創について議論されている点は注意が必要であろう。 これらに共通する考え方は顧客との接点である。特にS-Dロジックにおいても、その他の価値共創論においても顧客からの働きかけもしくは関与が重要であることを示している。そこで、次に資源の類型と価値共創について検討をする。Ⅲ.資源の類型と資源統合1.資源の類型 伝統的に資源というのは経営戦略の分野で注目をされてくるものであった。古くはPenroseによる議論があり(Penrose 1959)、いわゆるモノ・カネ・ヒト(さらには情報)を経営資源と見なし、これらの資源の蓄積を強調されてきた(伊丹 2012)。さらに経営資源の優越によって競争優位が獲得されるというRBV(Resource-Based Vied)は戦略論において長らく支持されてきている(Barney 2001)。他方で、これらの観点は企業の中に資源を収集する、すなわち取り込むということになる。つまり優れた資源を多く取り込むことによって優位性を獲得するということであった。 企業の規模に関する議論についても、このような資源の優劣によって議論されることが多い。大企業と中小企業という類型は企業の従業員や資本金といった経営資源での分類として知られているものであり、これらの経営資源から生産量やコスト、事業拠点といった複数の要素が異なっていることを示すものである。しかしながら、このような資源ではなく、資源を発見するということが多様な領域において議論されている。 S-Dロジックでは、Zimmermannによる言明を用いて資源の特徴を説明する。すなわち、資源は存在せず、生み出すものであると捉えることにより(Zimmermann 1951)、「アクターが生存可能性を高めるために利用するもの」(Lusch and Vargo 2014、邦訳143頁)と定義される。つまり資源は保有するのではなく、価値を創出するために利用するものとなる。このよ

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