RSS-2021
8/60

6中小企業支援研究統合の方向性を示すことができ、それによってマーケティングもしくは事業の展開を説明することが可能となる(図表 4 参照)。2.資源の類型によるビジネス展開 先に述べたようにS-Dロジックは、マクロでの価値共創を分析するための概念的な枠組みについて検討され、マクロ志向になっているが、他方で共同生産やエンゲージメントのようなメゾ領域(Storbacka et al. 2016)およびビジネスモデル(Wieland et al. 2017)や意思決定といったミクロ領域についても検討が求められている。 資源統合についても概念的研究(Kleinaltenkamp et al. 2012)のレベルから個別のアクターレベルでの研究へと多様化している。たとえば、Jesusらはカスタマージャーニーと資源統合の関係について消費者の視点で議論を行い、購買を主な起点とするカスタマージャーニーを使用価値にまで広げ、購買前、購買段階、購買後のそれぞれの段階と資源統合との関係を考察している(Jesus and Alves 2020)。特定の領域に限定しているのは、McColl-Kennedyらによる研究であり、ヘルスケアの領域における資源統合と価値共創について論じ、顧客価値共創プラクティススタイルを提示する。 このように資源統合のパターンによってミクロ的視点でのビジネス展開を考察することができ、価値共創における資源展開の2つのパターンを示すことが出来る。それは、市場資源への代替的関係と補完的関係である。代替的関係とは、市場資源と私的資源や公的資源が取って代わる関係となることであり、補完的関係というのは、それぞれが組み合わさることによって、価値共創が生み出されることになるというものである。 代替的関係は、2つのコンテクストから考えることが出来る。一つは私的資源や公的資源を市場資源に転換するということになる。たとえば、公的資源としてハローワークなどが行っている職業紹介は民間の職業紹介業者が実施することがある。このような業者が職業紹介事業に数多く参入し、多様な支援を行うことによって職業紹介に関する規模が拡大している。 また、私的資源から市場資源への転換は、近年、シェアリングサービスとして拡大してきている。シェアリングサービスとしてのUberやAirbnbのような事業(Wieland et al. 2017)は個人の資源を市場化する手段となっており、類似の試みは代行サービス(運転、家事など)がある。 さらに補完関係は、価値共創における資源密度の議論と大きく関連し(Lusch 2011)、どのように資源を組み合わせるのかが関わってくる。つまり、資源が組み合わされることによって価値が共創される。具体的に、Vargoらは道路(公的資源)と運転技術(私的資源)を示し、これによって自動車はオペラント資源として見なされる(Vargo et al. 2008)。このことはマーケティングにおける実務においてS-Dロジックが貢献することを示す。 例えば、自動車メーカーは、若年者の自動車への関心を高め、さらには運転する喜びを展開するために複数の試みを展開している。たとえば、トヨタ自動車は若年者の私的資源を獲得することを促しているが(運転技術としての自動車免許の取得や若者をターゲットにしたサブスクリプション)、これらは自動車という市場資源をアクターによって価値創造するための活動として捉えることが出来る。また自動車においては近年、電気自動車(Electric Vehicle、EV)の普及が進んでいる。その中で、充電ステーションの普及が課題となっているように他の私的資源との統合が課題となる。つまり、資源統合の視点は、それぞれの資源の統合による価値共創においてどのような抵抗要因があるのか、あるいは促進要因があるのかを分析することを可能とするのである。Ⅳ.まとめ マーケティングが市場での交換を対象とする分野で図表 4 資源の源泉による分類資源の類型特徴例公的資源社会全体もしくは一部の社会構成員が利用できる資源道路、公園市場資源市場から取引によって調達する資源自動車、運動道具私的資源個人や友人、家族から得られる資源運転技術(筆者作成)

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る