中小企業支援研究vol1
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19中小企業支援研究 別冊 Vol.1とはどのような内容を持つものであり、どこに革新性が存在するのであろうか。具体的にその内容を確認していきたい。バーゴとラッシュは、S-Dロジックの考え方を理解してもらうために、10の基本的前提(foundational premises)」を用意している。その詳細を紹介するスペースはないが、要約すると以下のようになる(図表1を参考にしてほしい)。① S-Dロジックの中心をなす考えは、サービスが交換の基本的な基盤であるということである(FP1)。② つまり、サービスはサービスと交換される。S-Dロジックでは、サービスとは、他の当事者のために自身の資産(知識や技能(knowledge and skill))を使うプロセスと定義している。この際、かれらは、単数形の“サービス(service)”と複数形の“サービスィーズ(servicies)”とを区別して、この2つを混同してはならないとしている。単数形のサービスは知識や技能を意味している。有形の財に目を奪われるとこの本質を見失う(FP2)。③ もちろん、製品(有形財)は、S-Dロジックにおいても重要な役割を持っているが、それ自体が価値創造の中心ではなく、サービス供給の伝達手段とみなされる(FP3)。④ S-Dロジックの第2の重要な見解は、価値と価値創造という考え方の中に見いだせる。G-Dロジックでは、価値は商品に内在しており、それは企業によって作られ、消費者に運ばれ、消費者によって破壊される(消費される)と考えられている。 S-Dロジックにおいては、企業は価値をつくることはできず、価値提案することができるだけであり(FP7)、受益者と共同で価値を創出していく(FP6)。⑤ このように、直接、または、財を通じて間接的に提供される知識・技能は、価値共創のインプットとなり、競争優位となる(FP4)。価値が実現される前に、そのインプットは、他の資源と統合されなければならない、その幾つかは市場をとおして、その他のものは個人的に(例えば個人消費、友人、家族)に、あるいは公的に(例えば政府)提供されることとなる(FP9)。⑥ このように、価値創造は常に、複数の交換リレーションシップのユニークなセットの文脈で起こる、協力的・相互作用的なプロセスである(FP8)。⑦ さらに、価値創造は、共同的であり相互作用的である。このように、サービスはサービスと交換されるのである。つまり、企業が顧客の価値創造活動のためのインプットを提供しているだけでなく、顧客も企業のために同じことを行っている(FP6)。⑧つまり、顧客も自身の資源(例えばナレッジとスキル)を、それぞれの置かれた文脈の中で、価値共創のためにいろいろな源から資源(FP9)を統合し、それが結果として、企業とともに価値創出プロセスに参画していることとなる(FP10)。図表1.サービス・ドミナント・ロジックの基本的前提基本的前提FP1サービス(service)は、交換の基本的基盤である。FP2間接的な交換は、交換の基本的単位を隠してしまう。FP3グッズは、サービス供給のための流通手段である。FP4オペラント資源が、競争優位性の基本的な源泉である。FP5すべての経済は、サービス経済(service econo-mies)である。FP6顧客は、常に、価値の共創者である。FP7企業は、価値を提供できず、価値提案しかできない。FP8サービスを中心とした考え方は、元来、顧客志向であり、関係的である。FP9すべての社会的アクターと経済的アクターが、資源統合者である。FP10価値は、受益者によって、常に、ユニークで現象学的に判断される。(出典:Vargo and Akaka(2009)p.35.)3.サービス・ドミナント・ロジックの唱える「サービス」とは基本的前提の表現が、若干抽象的であるので、ここでは要点をわかりやすく解説してみたい。基本的前提の説明の中でも指摘したように、彼らによると「サービス」の本質は「知識や技能」である。商品・製品を物理的存在として捉えると、モノというのは、場合によってはその後ろにある「知識や技能」を覆い隠してしまう。しかし、顧客・消費者はそこに内在化している知識・技術に対価を支払っているのであり、それによって自身の抱えている問題を解決できると考えているのである。このように有形財、無形財という発想を「サービス」という考え方に置き換えてしまおうというのがサービス・ドミナント・ロジックの非常にユニークなところである。この「知識や技能」を表現する言葉として、一時、ナレッジ・マネジメント、ケーパビリティ、コア・コンピタンシーという言葉が盛んに用いられた時期がある。しかし、S-Dロジックの視点から考えると、企業が「わが社には優れた知識があり、情報があり、優れた能力を備えた人材がいる」と自ら評価して終わるものではないということである。重要なことは、これらの資産価値は企業自身が評価するのではなく、顧客・消費者が評価して、はじめて利益として還元されるということである。

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