中小企業支援研究vol1
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21中小企業支援研究 別冊 Vol.1は、受験生世代だけではなく、そこを巣立った大人世代をターゲットにした「大人のキットカット」キャンペーンへとつなげている。甲府を中心にして展開している信玄餅で有名な「桔梗屋」も顧客の声に耳を傾け、製品・サービス内容に反映させ、一代で大きく事業を拡大させたことは広く知られたところである。③顧客の消費現場そのものが価値共創の現場顧客との共創に関する発想をより詳しく言えば、生産の現場に消費者を取り込んだり消費者に製品の使い方を提案してもらうだけではなく、「顧客が製品を利用してくれている現場こそ、生産プロセスの最終過程であるという認識」や「どのような製品・サービスであっても、実は、顧客が利用してくれている現場が、製品価値実現の現場である」ということである。当たり前といえば当たり前だが、今までにそのような形での消費者の取り込み方が日常的なものであったか疑問である。この事例としては、製造業ではないが、東京都町田市にある「株式会社ヤマグチ(でんかのヤマグチ)」を挙げることができる。大手家電ディスカウンター隆盛の中にあって、地域密着、高齢者密着というスタンスで、日常生活そのものに深く関わる形で信頼感・安心感を提供することで、顧客の望む価値を実現することに貢献しているといえる。また、これも東京都青梅市にある「青梅慶友病院」が興味ある事例を提供してくれる。この病院は、高齢者医療を対象とした病院であるが、おおよそ病院というイメージからは遠いと言っても過言ではない。患者の生活をより日常に近づけ、平素と変わらぬあるいはそれ以上のサービスを提供し、入院させた家族にしても病院に送ったという後悔を生ませないすばらしい環境を提供するという仕掛けで、顧客と共に価値共創を行っている。おわりに我々は、自分たちの生活を快適なものにしようとして製品やサービスを提供し、受容している。そのとき、形のあるものを「製品」、形のないものを「サービス」と分けて考える。しかし、そのような考え方に疑問を提起したのが「サービス・ドミナント・ロジック」という新しい考え方である。なぜなら、これまでのいくつかの事例からもわかるように、我々は、財やサービスの後ろに隠れている提供者の能力や知識に対価を払っているという意味では、従来から言われている製品やサービスという区別は意味がない。しかも、このような製品やサービスの価値は企業から一方的に提供されるものであろうか。顧客も製品やサービスの価値実現には重要な役割を果たしている。さらに、最近のようにfacebookやtwitter、あるいはlineのようなSNSが身近な存在になると消費者自身が製品の新たな使い方を提案したり、アイデアを企業に提供したりして、生活現場そのものからさまざまな新たな価値が生み出されてくる。「サービス・ドミナント・ロジック」とはそのような挑戦的な問題提起の実務と理論の橋渡しを可能とする新たな発想といえる。【参考文献】Lusch, Robert F. and Stephen L. Vargo (2006), “Service-Dominant Logic as a Foundation for Building a General Theory,” in The Ser-vice-Dominant Logic of Marketing: Dialog, Debate, and Directions, Robert F. Lusch and Stephen L. Vargo eds. Armonk、M.E. Sharpe, 406-420.-----and -----(2014), Service-Dominant Logic: Premises, Perspectives, Possibilities, Cambridge University Press, (2014).Vargo and Lusch, (2004) “Evolving to a New Dominant Logic for Marketing,” Journal of Marketing, 68 (January), 1-17.----- and ----- (2008)., “Service-Dominant Logic: Continuing the Evolution,” Journal of the Academy of Marketing Science, 36 (1), 1-10.-----., Archpru Akaka (2009), "Service-Dominant Logic as a Foundation for Service Science: Clarications," Service Science 1(1), 32-41 .井上崇通・村松潤一編著『サービス・ドミナント・ロジック:マーケティング研究への新たな視座』同文舘出版、2010年

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